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2005.04.25

明け方の猫

2005424_019 猫好きのための猫小説を読むべくして読んだ、保坂和志著『明け方の猫』(中公文庫)。一度くらいは猫になってみたいよなぁ。うちのたまらなく可愛いにゃんこみたいにのほほんと優雅に。すやすやと好きなだけ寝て、好きなだけ食べて、好きなだけ猫なで声で甘えて、ニャーニャー鳴いて思いっきり要求して…などと私と同じく思っている人にとっては、たまらない1冊であると思う。猫を体感出来るのだから。猫の視点になれると言っても、飼い猫ではなくてノラ猫なのだけれど。

 明け方見た夢の中で男性が猫になっていたところから、物語は始まる。猫になったばかりの新米の猫であるから、4本足で歩くことも鋭い嗅覚や聴覚にも一喜一憂の男性(猫)。どうやって足を踏み出したらいいのか、どこから漂ってくる匂いなのか、何の音が聞こえてくるのか、ひとつひとつに迷って考えて納得してから行動する様が何ともいい。妙に人間ぽくて。まるで、読み手も一緒になって少しずつ猫らしくなっていくような。そんな気持ちを体感できる。まさに猫小説である。

 私がくくくっとなってしまったのは、男性が迷い込んだ家で見せた本能的な行動と気持ちである。若い恋人同士らしき男女に、おいでおいでと誘われるままに入った部屋。しかし、部屋に入るやいなやその男女はどうするべきか戸惑ってしまう。どうやら本当の猫好きではないらしく、“ノラ猫なんか部屋に入れてどうするんだ?”的状況が見られる場面。なんと猫である男性は思わず服従のポーズをとり、ごろんごろん喉を鳴らすのである。特別に意識したのではなく。ふと気づくとという感じに。そして、“なぜこんな行動にでてしまったのだろう?”と自分を少々恥じる。実に人間ぽい。猫なんだけれど、人間ぽい。

 他にも、以前よく見かけていたミイという猫と出くわす場面もいい。ミイは決してキレイとは言えない姿。毛はバサついて汚くて老けているのか病気なのかわからない雰囲気である。そこでミイを嘗めて毛繕いするべきか、どうするべきか迷う猫である男性の葛藤が好きだ。本物の猫だったら嘗めるべきなのに、自然に嘗めることの出来ない自分は何なのだろう…そんな思いが、人間と猫との狭間を感じさせてくれていいなぁとうんうん頷いてしまった。

 こうして、感想をまとめてみると、どうやら私は『明け方の猫』の中の人間らしさを思わせるところが好きらしい。ついつい猫になりたいと口に出すくせに、実は人間であることが一番好きなのである。この小説を読んで、自分の中の隠された思いに気づかされたのだった。恐るべき猫小説。
 

4122044855明け方の猫 (中公文庫)
保坂 和志
中央公論新社 2005-02

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コメント

猫小説を取り上げていただきまことに感激しております。『明け方の猫』は私も大好きです。ところで世の中の人間は犬型、猫型に分類できますよね。1年ぐらい前に『村上春樹とネコの話』という本を読みました。猫を中心に春樹作品を論じている評論です。(ああそうか、ましろさんは村上春樹が苦手なんでしたっけ?残念!)その本の中では作家たちが二つのカテゴリーに分類されていますが、作家は多かれ少なかれ猫的な側面を持っているのではないかというのが僕の意見です。権力従順犬型作家というのもいるけどあまり魅力を感じないよね。

投稿: spring | 2005.04.26 20:12

springさん、コメントありがとうございます。
紹介していただいた保坂和志さんの小説、とってもおもしろかったです。
町田康さんの『猫にかまけて』も読書中なのですが、文体が馴染めなくてなかなか読み終えることができずにいます。村上春樹作品にも少しずつ挑戦してはいるのですが、どうも女性に対する描写がもぞもぞしてしまうのです。
犬型、猫型の分類はおもしろいですね。作家さんは猫的な側面を持っているって、妙にうんうん頷ける気がします。『村上春樹とネコの話』、カテゴリー別の分類だけでも読んでみたいですねぇ。好きな作家の方がどうなのか知っておきたいので。興味が湧いてきました。

投稿: ましろ(springさんへ) | 2005.04.26 23:11

猫好きのための猫小説ですか、面白そうですね。ここを読んでいて猫の絵本が頭に浮かんできました。タイトルは『百万回生きた猫』。とっても有名 !?だと思うんですが、インターネットで、いくつか書評があったんだけど、よく表現できているところ => http://oland.hp.infoseek.co.jp/Contents/book_kan03.html

がありました。

絵本は、子供が小さい頃に、3,4年前でしょうか、図書館で借りまくりました。絵本って重いんですよね。毎週、本を入れる袋が肩にずっしりきたことを思い出します。

投稿: kou | 2005.04.27 09:27

kouさん、コメントありがとうございます。
佐野洋子さんの『百万回生きた猫』は大好きです。独特の世界観ですよね。ご紹介していただいたページ、拝見しました。おもしろかったです!
佐野さんの小説もエッセイもいい味出ていて、いいんですよ。このブログでは『コッコロから』と『ふつうがえらい』を以前取り上げました。
『猫ばっか』というのもあるのですが、未読です。
絵本は最近読んでいないので、何か手に取ってみようかと思います。

投稿: ましろ(kouさんへ) | 2005.04.27 21:09

こんにちは、ましろさん。
またまた面白そうな小説!
さっそく「欲しいリスト」に追加しましたよ。

そうそう、最近ちょっといろいろあってね、
気持ちを切り替えたくてブログ引っ越しました。

相変わらずの内容ですが・・・

投稿: ヒロト | 2005.04.28 08:52

ヒロトさん、コメントありがとうございます!
“面白そう”と思っていただけて嬉しいです。猫好きのヒロトさんなら、きっと楽しめる作品だと思います。
ブログ、引っ越されたのですね。お知らせくださってありがとうございます。タイトルがユニークで印象的です。早速、リンクしておきますね。

投稿: ましろ(ヒロトさんへ) | 2005.04.28 19:15

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