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2005.04.13

偶然の祝福

20050412_020 沈黙の静けさが心地よいものだと感じる。繊細な描写はグロテスクなまでに存在を主張するけれど、ツボにはまるともう帰れないほど何とも好ましい。そんなことを思いながら1ページ1ページ丁寧にめくる。もったいない気がして、惜しむように最後までゆっくりとじわじわと読む。そして、私にとって小川洋子という作家の作品はどれもそんなふうに慈しみながら愛すものである。新刊が出るたびに追いかけるように読むのは、小川洋子さんと嶽本野ばらさんの本だけ。その習慣が根づいてからもう6年になる。

 小川洋子著『偶然の祝福』は連作短編集。7つのお話からなる。語り手の<私>の物語がそれぞれ互いに響き合って絡まりながらも繋がってひとつの大きなストーリーを作っている。<私>という作家の幼き頃の秘密めいた記憶、かわいい弟の記憶、罪深き出来事の記憶、お手伝いのキリコさんにまつわる記憶、息子と愛犬アポロにまつわる記憶、風変わりな伯母にまつわる記憶、かつて愛した男性についての記憶…などなど。それらは、様々な思い出の品とともに<私>の心に深く刻まれている。例えば嘔吐袋、例えば万年筆、例えばリコーダー、例えば恋人からの祝電、例えば白い結晶、例えば背中の袋…などと一緒に。それらは、いつかは失われていくものであり、残酷なまでにきっといつか忘れてしまう。

 また、この『偶然の祝福』は、これまでの小川作品の中に登場したであろう顔馴染みの登場人物がいる。例えば「蘇生」にて、アナスタシアを名乗る老婆。イニシャルであるAの文字をあらゆるところに刺繍をする。これは翌年に書かれた『貴婦人Aの蘇生』の基になったのだろうか…なんて。弟を名乗る男性もどこかで登場していたような…水泳選手の弟もどこかで…と挙げていってもきりがない。それは、おもしろくないとかではなく、愛情を感じながら読めるところが何ともいいのだ。うぅ、やっぱり小川洋子さんの小説はいい。読んでいて落ち着くし、心が安まる。新作が気になるところだ。

4043410050偶然の祝福 (角川文庫)
小川 洋子
角川書店 2004-01

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09 小川洋子の本」カテゴリの記事

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コメント

ましろさん、おはようございます。

この作品、良さそうですねぇ。
小川洋子さんの作品の中でも
グロティスクが強いものはちょっと苦手なのですが、
でもそこそこグロティスクなものは逆に好きです。
ましろさんの記事を読んでいたら
『偶然の祝福』は好きな方かもなーと思いました。
とても面白そう。

それから写真に映ってる猫のぬいぐるみ、可愛いですね。
ラブリー過ぎるぬいぐるみは好きじゃないけど
この猫ちゃんはいい感じです♪

投稿: ゆら | 2005.04.15 05:44

はじめまして。
ランキングからお邪魔させていただきました。

最近のお気に入りの本「秘密。」のコメントこちらに書かせていただきます。
私も最近読みました。
メディアファクトリーから出てるいろんな作家が入ってる短編3冊目でしょうか。
前の2作も好きだったので、ついつい買ってしまった本です。

読んだことない作家も読めて、今回のはA面、B面と変わった書き方で楽しめて読めました。

私の気になる本がいろいろあったのでまた、ゆっくりお邪魔させていただきます。

投稿: 秋月由衣 | 2005.04.15 14:14

ゆらさん、コメントありがとうございます。
この『偶然の祝福』は、いつもの小川洋子色を保ちながら、
さらりとした読み心地な方かと思います。
短編ひとつひとつが点と点で結ばれていくようなのも良い感じです。
もし読みましたら、ゆらさんの感想をぜひ聞かせてくださいませ。

そして、この猫のぬいぐるみは実は借り物です。
私はぬいぐるみは苦手でして…
このくらいだったらよいかなぁというくらいで、
なかなかいいショットかなと載せてみました。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.04.15 18:02

秋月由衣さん、はじめまして。
コメント、ありがとうございました。

早速、秋月さんのブログを拝見させていただきました。
たくさん記事を書かれていてすごいなと感心致しました。
また、ゆっくりじっくり読みたいと思っております。

メディアファクトリーから出ている前作も前々作も、
読んでらっしゃるのですね…おぉ、よかったのですかぁ。
私は今回が初めてなので、ぜひ他の2冊も読んでみたくなりました。

投稿: ましろ(秋月さんへ) | 2005.04.15 18:17

今、「偶然の祝福」を読んでいますが、一瞬エッセイかなあと思ってしまいました。小川洋子さん、目が離せない作家さんです。
次は「博士……」を手にとりたいと思います。
(ブログを移転しました。これからもよろしくお願いします)

投稿: 早乙女 | 2005.07.06 21:33

早乙女さん、コメントありがとうござます。
連作小説のかたちなので、物語がゆったりたゆたうように進んでいくところがいいですよね。小川さんの小説の雰囲気がそれぞれのお話と繋がっている…そういうときの静けさに満ちた佇まいが素敵だと思います。

投稿: ましろ(早乙女さんへ) | 2005.07.06 23:25

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