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2005.04.27

しかたのない水

2005424_023 人間らしいというのは、こんなにも小憎らしい嫌な一面を持っているものなのよなぁ。そして、同時にうふふんと思ってしまうような愛すべき一面を持ち合わせているのだなぁ。“人間だもの”とはよく言ったもので、弱さも強さも情けなさも、そういうのを全部まるごとひっくるめたものが人間というものなのだなぁ…

 井上荒野著『しかたのない水』(新潮社)を読んで、そんな当たり前のことを思った。物語の舞台となるのは、郊外のフィットネスクラブ。6人の個性的な男女が織りなす人間模様や恋愛模様が、丁寧に紡がれていく連作短編集である。タイトルといい、プールを思わせる鮮やかなブルーの表紙と、そこに身を漂わせている白い水着の女性の装画といい、それらが何ともいい雰囲気を感じさせる。

 物語は「手紙とカルピス」、女性を殴るところから始まる。ぴたっとした派手なビキニで泳ぐ、かなりすかした感じの男性が主人公である。“君がはいているようなジーパンは、どこに行けば買えるのかな?”と訊かれて“ジーパン屋”とそっけなく一言返すような男である。男曰く、“ジーパンをどこで買うかもわからないやつはジーパンなんかはかないほうが身のため”らしいが。あぁ、この男の軽薄な行動にも言動にも、正直むかついていられない。読み始めたばかりなのに。

 そうやって読み進めるほどにどんどん感情は高まり、自分の肌やスタイルに自信満々の女性に、受付嬢と不倫するこれまた自分の目に妙に自信ありげな男性に…とやはりむかつきを感じていると不思議なことに気づく。むかつきを覚える登場人物の視点で物語を読むと、いつの間にか嫌な奴がいい人、或いは憧れのあの人的に描かれていることに。

 そう、だから読めば読むほどに、どの登場人物にも愛着が湧いてしまうのだ。ものすごく嫌な奴なのに。小説を読んでむかつきを覚える私だって、実はかなり嫌な奴であるのに。うーん、みんな嫌な奴。でも、何だか人間ぽいじゃないの。何とも人間ておもしろいじゃないの。そんなことを思って、気がつけば物語にどっぷりとはまっている。もう一度読み返している。いいなぁ、これ。いいわよぉ、これ。自然と誰かにオススメしているのだった。

4104731013しかたのない水
井上 荒野
新潮社 2005-01-26

by G-Tools
4101302529しかたのない水 (新潮文庫 い 79-2)
井上 荒野
新潮社 2008-02

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04 井上荒野の本」カテゴリの記事

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コメント

おひさしぶりです。

僕とましろさんは、主に本の感想をブログに書いていますが、読んでいる本は見事なほど重なりませんね。笑

僕は、読んだ内容を”どういかすか”ということを常に考えているので、小説はあまり読まないのです。

もちろん、小説が何の役にも立たないというつもりはありません。主に人格形成には大いに役立つと考えています。

そういう観点から考えると、もう少し小説も読んだほうがいいと思っています。

それから、ましろさんは猫がお好きなのですね。僕も以前、黒猫を飼っていたことがありますよ。ちなみに現在は、ゴールデンレトリバーを飼っています。

冬にはよく、ストーブの前で二人でお昼寝しました。

動物って、純粋でいいですよね!

では、今日も良い一日をお過ごしください。

投稿: デミアン | 2005.04.28 10:02

デミアンさん、コメントありがとうございます。
確かに読む本が重ならない…(笑)『卒業式まで死にません』という本が結びつけてくれたような縁だなぁと思います。
私は実用書や自己啓発本、海外作品がどうも苦手なジャンルでして。デミアンさんのブログを参考に、狭い視野を少しずつでも開拓していきたいです。

黒猫を飼ってらしたんですか。そして今はゴールデン!我が家は猫3匹と犬1匹なのです。ゴールデンとラブラドールのMIX(要は雑種。)で、中途半端な毛の長さですが可愛いです。
愛犬に接するときは、断然猫派な私も犬派に変身致します。ホント、動物はいいですね。

投稿: ましろ(デミアンさんへ) | 2005.04.28 19:23

ましろさん、こんばんは。
井上さん初めて読んだのですが、この本本当に不思議な本です。
主人公達には未来がないのに、読んでる私の気分は落ち込まない。
井上さん他の本が気になります。

私もTBさせていただきました。

投稿: なな | 2005.10.18 23:33

ななさん、コメント&TBありがとうございます!
ホント不思議な本ですよね。
私は「もう切るわ」が初めて読んだ作品だったのですが、かなりはまってしまいました。
ある1冊に挫折してから離れてしまっているのですが、近々「ひどい感じ父・井上光晴」を読んで、再度マイブームにしようと企み中です♪

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2005.10.19 20:17

ご無沙汰してます。
Tbさせて頂きます。
少し前に読んだ作品だったのですが、ましろさんのブログにTBし忘れていましたー。

投稿: 桜井 | 2005.12.11 00:50

桜井さん、ご無沙汰です!
この本読まれたんですねー。
桜井さんの記事、ゆっくり読ませていただきます。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.12.11 14:39

トラバさせていただきました。なんかましろさんのレビュー好きなんですよ。
井上荒野さんの文章とましろさんの文章が波長があっててきれいだなあと。
もう切るわもいいですよね。本当タイトルが秀逸。
ではでは、また。お邪魔しましたー。

投稿: peco | 2008.03.20 10:42

pecoさん、コメント&TBありがとうございます。
好きだと言っていただけるなんて、嬉しい限りです。
ここのところ更新が途絶えているので、励みになります。
それにしても、ホントこの作品も「もう切るわ」もタイトルがいいですよね。
最新作の「夜を着る」もタイトルだけでぐっときます。
またぜひいらしてくださいね☆

投稿: ましろ(pecoさんへ) | 2008.03.21 13:22

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