« あるようなないような | トップページ | 凛々乙女 »

2005.04.04

ふつうがえらい

tokitoki006 “正しくておもしろい”という河合隼雄の帯の言葉に誘われて佐野洋子著『ふつうがえらい』(新潮文庫)を読んだ。まさに痛快エッセイ。平成3年に出版された飾り気のない素直な気持ちを綴った書物には人間味が溢れており、暖かくするっとした何とも言い難い雰囲気を醸し出していた。おんおん泣いて、げらげら笑い、本音を吐いて生きるのを楽しむ著者の姿勢にはひれ伏してしまいそうなくらいである。そのくらいパワーを持ったおもしろいエッセイ集。笑える、泣ける、楽しめる、と三拍子揃った本である。

 “基本的にエッセイというのは世間話と思っている”著者の言葉どおりに自由に語られる七十三ものお話。「あーつかれた」では、美人ではない我及び同志に励ましの言葉をかける。ブスという言葉は好きではないが、目くじらを立てるほどのことでもない。ブスという言言葉がなくなっても、美人じゃない我及び同志が消滅することはない。人間が平等であるなんて幻想である。平等なんて気持ち悪い。退屈であると著者は言う。そういう差別こそを生きてきた私たちは、エリート特権階級にいる人たちよりも懸命に生きるエネルギーを与えられたのかもしれない。エリート特権階級は画一性を運命づけられも、われわれ同志は実に多様である。多様なことは豊潤であることである。世界が豊かであることに貢献しているとまで言う。その痛快さに思わずにんまりしてしまう。

 「私日本人です」では、何とも日本人らしい性格というか資質というかそういうものを感じさせる場面が描かれている。山の中にある2軒の家。奥さんとはかきね越しに野菜のやりとりをするつかずはなれずの大変よい近所付き合い。しかし、女所帯の著者宅で犬を飼っていたところ、隣の家のにわとりを犬が食べてしまった。「犬だもの仕方ないわよ」と言ってくれたお隣。その後、ちゃぼを飼うようになったお隣。著者はそのちゃぼに復讐されるようになってしまう。夜12時を過ぎると「コケコッコー」と鳴き始めるのである。1分間に6回も鳴くこともあり、朝5時まで眠れない日々。睡眠薬を飲むまで眠れない著者。泊まりに来る友人はさっさと帰ってしまう。だが、それでもお隣との交友関係を保ちたい著者なのである。そして、オチ…かなり笑える。何ともおかしい。

 「おばさんで何が悪い」では世のおばさんに対するある意味エールを送り、「もの言わぬから」では猫に対する密かな思いを語り、「茶ぶ台ではない、テーブルで」では著者の大好きな場所である台所にまつわる思いを語り、「母を殺せ」では男の子に対する母親の赤裸々な感情を語り、「性悪猫」では『性悪猫』の作者・やまだ紫にまつわるお話と、くそ真面目に生活してしまう女・母親について思いを巡らす。「性悪」に惹かれる著者は「性悪犬だったら何だか凶悪殺人と関係がありそうで下品だと語る。生まれながらの人間の資質というものは変わらないと思うのであった。

4101354111ふつうがえらい (新潮文庫)
佐野 洋子
新潮社 1995-03

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

|

« あるようなないような | トップページ | 凛々乙女 »

25 佐野洋子の本」カテゴリの記事

68 エッセイ・詩・ノンフィクション本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/3564294

この記事へのトラックバック一覧です: ふつうがえらい:

« あるようなないような | トップページ | 凛々乙女 »