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2005.04.01

蛇を踏む

101-0114toki 第115回芥川賞受賞作である川上弘美著『蛇を踏む』を再読した。同著である『あるようなないような』を読んでいたら、急にもう一度読みたくなった。蛇が嫌いな私は、蛇のことが「あんがい好きである」という著者の発言を読み、「意外と平気」な気持ちがわくような気がしたのだった。初めて読んだときの鳥肌がたつほどの気持ち悪さはないにしろ、やはり、あまり好ましい感情はわかなかったのだが…主人公がまさにそのまま川上さん(?)的な感じがして再読なのに妙にドキドキして楽しめた。

 『蛇を踏む』は、数珠屋でバイトをする主人公・ヒワ子と、ヒワ子の部屋にやってきた蛇との関わりを描いた幻想的な作品。「踏まれたらおしまいですね」「踏まれたので仕方ありません」と声がして、蛇は「あなたのお母さんよ」と、部屋で料理を作って待っていた。人間の女の姿に化身した蛇はヒワ子の母を名乗り、彼女を蛇の世界へ誘い込もうとする。蛇との共同生活に馴染みながらも強く抵抗を感じるヒワ子。「おかえり」なんて言われると、もうずっと何年間も言われてきたような気分になって、つい「ただいま」と言ってしまう。いらないと言おうとして、しかしビールを見ると一杯だけ飲んでしまう。飲んでしまうと蛇の作った料理に箸がのび、ついもっと飲んでしまう。

 「ヒワ子ちゃんはいつもそうやって知らないふりをするのね」などと言われながらの共同生活には、壁がないことに気づくのだった。他者と接するときに感じる最初から壁を隔てたような遠い感じが蛇にはない。バイト先の数珠屋の主人であるコスガさんや奥さんであるニシ子さんと接するときのような…。薄かったり厚かったりするが、家族に対しても壁というものは存在する。壁があるから話ができるとも言えるほどに。

 数珠屋のコスガさんから、ニシ子さんがもう20年以上もヒワ子と同じように蛇と共同生活を送っていることを聞かされる。最初は邪魔だし気味が悪いしという思いから、追い出そうとしていたのだが、どうやっても追い出すことができないめぐりあわせとなってしまうのだった。お祓いをしてもらったこともあったのだが、特に悪いものは憑いていないと言われ、蛇が消えることはなかった。そのうち蛇がいることが自然になってきたのだが、最近になって蛇の死期が近づいているようだと言う。

 何を思っているのか、ニシ子さんは人間の姿をとれなくなった蛇に嬉々として餌を与えている。もう蛇など捨ててしまえというコスガさんに首を横に振り。こうなると、ニシ子さんのことがわからないと言うコスガさん。こわいような心もちになる。「こわいよ僕は」という言葉にコスガさんのどんな気持ちがあるのか…蛇がこわいのかニシ子さんがこわいのか、そんなことはコスガさんにもわからないのだろうが…そう考えると「ヒワ子ちゃんはいつもそうやって知らないふりをするのね」という言葉を思い出してしまう主人公。蛇の世界への招待は、奥深い受容の世界への招待のようにも感じる。設定といい、ストーリー展開といい、何とも愉快な心地がするのはなぜだろう。

4167631016蛇を踏む (文春文庫)
川上 弘美
文藝春秋 1999-08

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15 川上弘美の本」カテゴリの記事

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コメント

お久しぶりです。ましろさんは川上弘美ファンなんですね。僕は処女作の短編『神様』の頃から何となく読んできましたが、この『蛇を踏む』も含めて読者の解釈を拒絶しているようなところがありますよね。そこがこの人の書く作品の新しさであり魅力だったりしますが反面、小説を書こうと意識して書かれた小説という気がしていたのです。正直なところ僕は『センセイの鞄』のようなストレートな作品に惹かれてしまいます。唯一この小説だけが自然体で書かれているような気がするのです。『ニシノユキヒコの恋と冒険』はまた別な意味で印象的でした。同僚の女性は読後「川上弘美ってなんか変ですよねえ」・・・なんと答えたらいいのか分かりませんでした。
ところでましろさん今度、無類の猫好き作家、保坂和志の作品や最近、猫小説を書いた町田康なんかを取り上げてくれたらうれしいです。僕は保坂のなんにも起こらないだらだら哲学小説や遅れてきた破滅型作家町田康に時折共鳴しています。

投稿: spring | 2005.04.04 20:10

springさん、コメントありがとうございます。
springさんも川上作品好きだったのですね。私はまだ読み始めてから2年目の初心者で、全作品をいつか読みたいと願ってます。まずは文庫から。まだまだ道は遠いですが、自分にしっくりくるような本と出会えたら人生楽しくなりそうで…ちなみに、私も「センセイの鞄」は大好きです。

猫好き作家特集ですかぁ…良いですねぇ。町田康なら「猫にかまけて」でしょうか。保坂和志の小説は読んだことがないのですが猫好きの作家さんて多いですよね…企画ありがとうございます!

投稿: ましろ( springさんへ) | 2005.04.04 23:37

 ましろさんのブログ、まだ一部しか読ませていただいてませんが、大変楽しく拝見させていただきました。
 ネコの写真が、かわゆいなー。
 心がなごみました。
 これも、『蛇を踏む』の書評を書いたお陰です。
 ありがとう!

投稿: ツキ カオリ | 2005.07.08 23:50

ツキ カオリさん、コメントありがとうございます。
楽しく読んでいただけてよかったです。
ネコにはお世話になりっぱなしで…私もなごんでおります。

書評、いくつか読ませていただきました。
特に島田雅彦さんのものにぐっと惹かれました。大好物なもので。
「浴室」もいいなぁと。再読熱がふつふつしてきました。

投稿: ましろ(ツキ カオリさんへ) | 2005.07.09 10:42

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