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2005.04.30

All Small Things

2005424_012 例えば、今している恋愛について。今までの恋愛について。忘れられない恋愛について。理想の恋愛について…そういうことを思ったり考えたりしてみた。けれど、それはちっぽけでひどく些細なことでしかなくて、あまりにも語るに耐えない。思えば私は、たかだか20数年しか生きていないし、数えるくらいしかいわゆる恋愛というものをしたことがない。本物の恋なぞ、もしかしたら未だ経験がないかもしれないのだった。

 角田光代著『All Small Things』は、そんな私の思いを穏やかにしてくれる本だった。“あなたの場合、恋人と過ごしたどんな時間が心に残っている?”という問いと共に、紡がれた短い小説集である。周囲を見回してみればいそうな、けれど特別な、そんな主人公たちの12の物語は、いじらしくてせつなくて温かくて優しい。私は読みながら、一緒になってきゅんとなり、心乱されて揺れながらも頷く。

 今までで一番印象に残っているデートって?もっともデートとは言えないようなデートって?恋愛のさなかで一番幸福だと思ったのは?好きな人と一緒でよかったと思ったことって?結婚して一番よかったことって?一番むかついたデートって?一番にやついたデートって?自分が自分でなくなったような恋って?奇跡みたいな一瞬って?…

 出てきた問いを並べてみる。こうやってずらりと並べてみると、全部の問いに対する答えはひとつなのだと気づく。あぁ、言い方が違うだけで同じことを訊いているのだと。そうして、これらのどの問い対する物語もそれぞれ味わい深くておもしろい。

 こんな場面がある。不倫をしていた京子が、近所の小さな公園で恋人とパンを食べるという。京子にとってそれは、自分に不相応なくらいの幸せだった。奇跡のような。人生の中の最高潮のような。味付けのことで喧嘩しながら、たくさんのパンを頬ばること。それは、最初で最後の2人で食べるごはんだった。京子の恋は不倫であったから、相手の家にも会社付近にも人通りの多いところにも行けない。所帯じみたこともできない。会うのは自分のアパートか、ホテルだけ。一緒に済ませる食事は、あくまで食事であってごはんでない。そんな感じだったと言う。

 もっと幸せだったこと、嬉しかったことは、いっぱいあるのに…。思い出すのは、京子曰く“地味”なこんなエピソード。それが何とも愛おしいものであることを、私たちは知っている。自分自身を肯定してくれる人とのかけがえのない時間であることも。自分のことを好きになれるのは、相性の良さでも、気遣いでもないことも。

4062122642All Small Things
角田 光代
講談社 2004-02

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4062756447ちいさな幸福 (講談社文庫)
角田 光代
講談社 2007-01-12

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13 角田光代の本」カテゴリの記事

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コメント

はじめまして。
TBありがとうございます。
角田光代さんの本に
最近はまりはじめました。
『All Small Things』は
とってもよかったので
これからいろいろ読んでいくのが
楽しみです。

投稿: ひろみ | 2005.08.25 09:04

ひろみさん、コメントありがとうございます。
ささやかな日常だとかみみっちい出来事だとか、
そういうものを描くのが上手い作家さんですよね。
私も読むのが楽しみです!
最近の作品は読んでいないので、読まなくっちゃ。

投稿: ましろ(ひろみさんへ) | 2005.08.25 10:26

お久しぶりです、ANDANTEのあさひです。このたびブログをお引越ししました(デザインなどはほとんど変わっていませんが…)。本の感想を書いた記事などは新しいほうに暇を見て移行させるつもりですが、これまでのTBなどは削除していただけると助かります。
さて、All Small Thingsですが。どこかでこの話を聞いたような…と思っていたら、これでした。
http://www.tbs.co.jp/i-date/
「一番大切なデート」というタイトルにはなっていますが、TBSでドラマ化されていて、私はこれを見ていたのです(キャスト目当て…)。原作を読まずにドラマを見たのですが、結構よかったです。今度は原作を読んで違いを発見しなくてはなりません!…文庫待ちですが(涙)

投稿: あさひ | 2005.08.26 19:33

あさひさん、コメントありがとうございます!
ブログ引っ越されたのですね。って、知っておりますよ(笑)
ご丁寧にありがとうございます☆嬉しいです。
TB、チェックしておきますね。新しいアドレスのブログから、またお待ちしております。

『All Small Things』って、ドラマ化されていたのですね。
見逃してしまった…
豪華キャストじゃないですかぁー。あさひさんが文庫化希望なら、私はビデオ化orDVD化希望しなければ。あ、できることならレンタルで。

投稿: ましろ(あさひさんへ) | 2005.08.26 20:03

こんばんわ
検索で、お邪魔しました
たくさん読んでますね、本

中年の、女性のわたくしでも、
こういう人に会ってみたいナと
思ってしまいました

投稿: 唐糸 | 2005.12.03 19:51

唐糸さん、コメントありがとうございます!
読書量はそんなたいしたことないです。恐縮です。
ブログを始めてみたら、もの凄い活字中毒な方々がいっぱいでびっくりしました。

いつまでも恋をしていたい…と私も思っております。
なかなか出会いがないのですけれど。

投稿: ましろ(唐糸さんへ) | 2005.12.04 15:28

まだ反映されていないようですが、TBさせていただきました。

この本、ただの恋愛小説かと思えば、ぜんぜん違っていてすごくよかったです。
読んでいて、なんだかこっちまでにっこり微笑んでしまうような本でした。

角田さんや江國さんの本てなぜか敬遠気味なのですが(理由は自分でもよくわかりません)、この本を読んでまた別の作品も読んでみようかななんて思いました。

投稿: 大葉 もみじ | 2006.10.22 13:45

もみじさん、コメントありがとうございます!
TB。不具合続きで申し訳ないです。
他にもそういう声はあるんですが、スパム対策は何もしていないので、
サーバー側の問題のようです。いつもご迷惑をおかけしております。

わたしも実はこんなに読みつつも、敬遠しているんです。
最近は全くと言っていいほど、手にとっても最後まで読めません。
なので、最近は載せてません。
なぜなんでしょう?わたしもわからない…(笑)

投稿: ましろ(大葉もみじさんへ) | 2006.10.22 19:01

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