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2005.04.08

幼児狩り・蟹

20050407_010guto 久しぶりに再読した河野多恵子著『幼児狩り・蟹』(新潮文庫・廃盤)。男の子に異常な関心を示す子供のない女性の内面を掘り下げた表題作「幼児狩り」、外房海岸を背景に小学1年生の甥と蟹を求めて波打ち際で戯れる中年女性の屈折した心理を描く直木賞受賞作である「蟹」など、日常の欺瞞性を剥ぎ取り、歪みの中に人間性の正確な把握を試みた短編6編を収録している。

 河野多恵子の小説のモチーフとなっているのは、幼児誘拐にもよく似た危険さを秘めた男の子への執着である。1961年に発表された「幼児狩り」以降、このテーマによる小説がいくつか描かれているのだが、それは母性本能とはかけ離れたものであった。子供のいない中年女性が、他人の幼い男の子にただならぬ関心を抱く。それは、我が子を持ちたいとか単純に可愛いとかいうものではなく、加虐的な欲情の対象として少年たちを密かにうかがうものである。その不気味さや異常さは、エロティックでありながらなぜか不思議と乱れがない。だから、すっと物語の世界へ引き込まれてしまう。

 特に、女性の心理は興味深い。どこか孤独さを秘めていたり、迷いや戸惑いを秘めていたりする。ちょっとした悪戯心だとか。それは、とても人間的で好ましい。冷静に考えてみれば、危険で勝手で欲求のかたまりでしかないとも言えるのであるが…。そういえば、誰しも何らかの欲求を秘めながら生きているのだったっけと思い出させるのだった。

 危険さや異常さを含みながら、どうしてこんなにもさらりと読めてしまうのか…と考えてみると、やはり作者の書き方によるのではないかと思った。丁寧に細部にわたって描きながらも、グロテスクではないと読み手に感じさせる書き方。感情的になったり、文体が乱れたりすることなく描かれているためなのだろうか。歩調が乱れないので、心地よくすら感じてしまう。こういう歪みの中に人間性を感じる物語は、なかなか好みの作風である。

4101161011幼児狩り,蟹 (新潮文庫 こ 9-1)
河野 多惠子
新潮社 1973-04

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