« 処方箋 | トップページ | 愛の生活 »

2005.03.05

暴力恋愛

 主人公・みかと達也との日常生活では、暴力が当たり前になっていた。「好き」という気持ちや相手に寄りかかる気持ちが、相手をどんどん思い詰めてしまう。そんな危うい感情や自分の存在について描かれた雨宮処凛著『暴力恋愛』。“私が私でいるだけで、ただそれだけで生きていける方法を知らないから、この小説を書いた”という著者のあとがきの言葉が少々痛い。ありのままの自分を受け入れられること、理解してもらうことの難しさを改めて実感させられた。そして、自分のバランス感覚のズレや厳しい現実を思い知らされてしまった気がする。

 出会いは2年前。自殺未遂のトークイベントを主催していたみか。彼女の前に取材をしたいと言って突然近づいてきた達也。中学時代よりリストカット癖が続いているみかは、自分のことをわかってもらいたいという欲求が大きかった。誰かに自分のことを認めて欲しかった。いつのまにか達也はみかに興味を持ち、彼女の映画を撮ってくれて、いろいろ優しくしてくれる存在となった。生まれて初めて自分のことを思う存分話せる相手、初めて自分に関心を一身に受けてくれる相手であった。達也はみかの気持ちがわかる、自分の中にも似た気持ちがある…そう言ってくれた。ネットじゃない現実の世界で、等身大の偽れない彼女のままでいられることができた。映画が完成したとき、彼女は自分のことを愛しく感じるのだった。映画のラストの達也からのみかへの優しいメッセージに初めて嬉し泣きをして、愛おしい気持ちを持ったのだった。

 お互いに優しい気持ちで接していたのに、必要としていたのに…達也は一言でみかを否定してしまう。お互いを罵倒して、物を壊して、最後には決まって殴り合いになってみかが気を失いそうになって、数え切れないほどの夜を無駄にしてきた。お互いたくさんのものを失って、たくさんの人間関係と仕事を失った。そして、一番多く失ったものは、お互いのお互いに対する信頼であった。こんな思いをしてまでも、いつも達也にすがりつくみか。殴られても必死に許しを乞い、いつも“お願い達也君が好きなの。遠くへ行かないで。私のこと嫌いにならないで。私のことを軽蔑しないで。全部私が悪いの。何でもするから。許してくれるなら私なんでもするから”そんなことを言うみか。そんなみかを思いきり突き飛ばす。“お願いだからやめてくれ!”と。これ以上一緒にいて、いったい何の意味があるのかと。終わらせたいから暴力をふるうのかもしれない。けれど、みかは達也が離れようとすればするほど執着してしまう。狂ったように。それは、彼女がこの世に存在することを、初めて許してくれた人だから…

 歯車の狂いを認めたくなかった。殴られることによってでも、相手にされたい。無視されたくない。気を引きたい。自分でも愚かだと思うけれど、止められない。自分がなりたいものになっていることが恥ずかしかった。何に対しても不満と不安だらけのくせに、自意識過剰で攻撃的。そして、何よりも自分に自信がなかった。人との接点が近過ぎることを怖がっていて、いつも勝手に線を引いた。自分は違うと思っていた。そうして、いつの間にか自分で自分を責めるようなプレッシャーに苦しんでいた。しまいには、リアルなんていらない。苦しみを遠ざけて生きていたいだけ…今ここにある自分の問題からにげたいだけ。私は私でいる必要がない。ずっと前から。そして今も…

 殴られているには、彼女なのに彼女以上に傷ついているのは、達也のほうだった。達也が可哀想で仕方ないと思う主人公。どこかで諦めている。どこかで試している。そして、どこかでほくそ笑んでいる自分の存在に気づくのだった。

4062749904暴力恋愛 (講談社文庫)
雨宮 処凛
講談社 2005-02

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…

|

« 処方箋 | トップページ | 愛の生活 »

01 雨宮処凛の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

暴力恋愛、あたしも読んだよ。
何処に行くかワカラナイ展開が飽きずに引き込ませて、なかなか楽しく読めた。
宗教が出てきたのも良かったと思う。
やっぱりこの人は魅力的な一面性を引き出した女のコを書くのが上手いと思う。
それは精神的に病んでるとか、そうゆうのとは違った面での、そのコの個性。
ただ一番肝心な最後のストーリーのもっていきかたに疑問を感じた。
そこまでまとまってきた話を解消なり、消化なり出来ていないように感じる。
小説というカタチをとっているのなら、その最後が欲しいものだと思った。
後書きでかかれているように、突然に終わってしまうものだとしても、
その突然さがあまり上手くかかれていないような気がして
其処が残念。。

投稿: ナヲ | 2005.03.06 22:57

コメント、どうもありがとう!
私もあらすじ&ストーリー展開に途中までは、かなり入り込めた。
実は、夢中で読めた部分のことしかブログには書かなかったの。
確かに後半&終わり方はちょっと…ね。うん、わかる。
期待していたし、させられていたから、正直残念だった。
あとがきを読んで、私は作者自身のことを書いているのかな…
などと勝手に解釈してみたり。いい方によい方に解釈。
作者も映画に主演しているし、風俗を職業にしていたり…
もしかしたら、作者の中ではまだ答えが見つかっていないのかなぁと。
『私が私でいるだけで、ただそれだけで生きていける方法を
知らないから、この小説を書いた』って、あとがきの言葉、
これが作者の迷いや結末の全てなのかなぁと。
だから拙くても物足りなさがあってもよいのだと
勝手に解釈している私デシタ。それって、甘いのかなぁ…
ただ自分の抱いている思いと近い部分を表現していただけで、
それだけでも4つ★をつけてもいいかなぁと思ったのデシタ。
この小説が初めての長編作品だから、今後に期待!かなぁ。
でも、私はこの小説はこの小説なりに好きです。


投稿: ましろ(ナヲへ) | 2005.03.06 23:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/3178616

この記事へのトラックバック一覧です: 暴力恋愛:

« 処方箋 | トップページ | 愛の生活 »