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2005.03.23

覆面作家の愛の歌

20050127_030 ミステリー界にデビューした「覆面作家」の正体は可憐な美貌の持ち主である新妻千秋。豪邸であるお屋敷にひっそりと住み、天は彼女に2物どころか3つも4つも与えてしまう。1聞いて軽く100を知るほどに明晰な頭脳を持ち、鮮やかに難解な事件を解決してしまう。お屋敷では人見知りする子猫だが、外に出ると凶暴なサーベルタイガーに変身してしまう。そんな「覆面作家」シリーズの2作目が北村薫著『覆面作家の愛の歌』なのである。3つの章からなる物語。彼女の担当編集者である岡部良介とのやり取りも楽しめる。

 1話目「覆面作家のお茶会」では、名パティシエ出奔の謎に千秋と良介が挑む。特別に大きな謎ではないけれど、登場人物たちがふと立ち止まり、考えて行動しているところが何とも心地よい。これぞ、北村氏のミステリーだと唸らせるのだ。文章もひとつひとつの言葉を大切に書かれているせいなのか、暖かみがあって丁寧さを感じるのである。言葉に対する慈しみは、言葉をただの言葉には収めないで、その場限りではない作品内に広がるように考えられている気がする。計算であろうとなかろうと関係なく、あぁ、立ち止まってみよう。そして、文章の意味を考えてみよう…そんな気にさせるのである。

 2話目は「覆面作家と溶ける男」である。一見、ただ日常の謎解きを連想させるが、犯人の歪んだ思いが印象的な作品である。少年たちに血液型をたずね、ラブレターの投函を依頼する不思議なおじさんの正体をあばく。何のためにそんなことを少年たちに頼むのだろうか。しかも、晴れた日に限って。そのラブレターには、切手が貼っておらず、切手と封筒を別々に渡されているのである。奇妙な謎解き、これだけのヒントだけでわかるだろうか…?

 3話目「覆面作家の愛の歌」は、劇団内で発生した殺人事件に、本格的な推理小説の花形であるアリバイ崩しをからめたミステリーらしいお話となっている。複雑なトリック、名探偵と犯人との息づまる対決が見所である。パーティー会場で対峙する名探偵と犯人。どういう人なのかと犯人側が問えば、「タンテイだよ」と千秋は軽く返す。ここの凛とした姿が何とも格好いいのである。探偵宣言後、千秋の解明した現実離れしたトリックは、現実とは別の空間を生むことを目的とした劇団を舞台にすることで、それを無理なく作品世界に溶け込ませることが出来ている。さすが北村氏である。

 そしてそして、何よりも気になるところは、「覆面作家」のふくちゃんこと、千秋と良介の仲である。良介に対して「人生の師だよ」と賞賛する千秋に、心の中で良介がつぶやく……もっと別のものになりたい。と、こんなふうに。この淡さも北村作品ならではかもしれない。

404343202X覆面作家の愛の歌 (角川文庫)
北村 薫
角川書店 1998-05

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コメント

TBさせてもらいました.
「愛の家」ではなく「愛の歌」ですね.

投稿: モンキーターン | 2005.08.02 19:55

モンキーターンさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
ご指摘どうもです。何というミスを…

投稿: ましろ(モンキーターンさんへ) | 2005.08.02 22:48

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ペンネームは覆面作家―本名は新妻千秋. “天国的”美貌でミステリィ界にデビューした新人推理作家の正体は,大富豪の御令嬢.しかも彼女は,現実に起こる事件までも鮮やかに解き明かすもう一つの顔を持っていた!春のお菓子,梅雨入り時のスナップ写真,そして新年のシェ... [続きを読む]

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