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2005.03.21

ロココ町

 久しぶりに再読した島田雅彦著『ロココ町』。タイトルからして、全編パロディーのような、かなり気の利いた洒落のような、そんなイメージがわくのは作者の人柄だろうか。ポスト安部公房と発表当時は言われていたらしいことを解説で知ったのだが、島田作品は文体や主題がコロコロと変わる自由自在な存在だと私は思っている。世の中を皮肉ったような描写も斜めに構えた姿勢も、彼のオリジナルな毒となってチクッとくるのだ。それが何とも形容し難い心地のよいものであるのか、一度彼の作品を読んだ方ならわかるだろうと思う。わからない方は、どの本からでもいいから読んでみてほしい。その毒はやみつきになるだろうから。島田雅彦(1961年~)の世代にとって、安部公房は既に読むよりは使ってこそ生きる先覚者であり、その文学思想を探求するのではなく、発明した小説を再発明する視点を持って描かれた作品のひとつが、この『ロココ町』である。

 主人公の<ぼく>は、大学・大学院時代のメディア研究会の仲間であったB君の行方を探るべくして、遊園地が廃退してそのまま町へと変貌していったロココ町を訪れる。町を探索するうちに、町そのものが迷路的な果てしない遊園地都市として巨大化していることに気づいていくのだった。ロココ町は、ひどくよじれた空間であるらしく、地図とは異なる行き方しなければ着けないのだった。1本道をまっすぐに行けば着くはずなのに、途中で4つに分かれていたり、四次元トンネルとなっていたりするのだった。そのうえ、とんでもないところに連結している。精神病院、都心に直結する高速道路、MUP(Maniac Union Productuonの略)のスタジオ、遊園地、原子力発電所である。これらをどう結びつければよいのか…

 メディア研究会の仲間の中で最もラディカルな情報理論を持っていたであろうB君。だが、彼の理論について行ける者はいなかった。実のところ、B君が何を考えていたのか理解しようとしなかったし、彼の方も自分の理論の説明を億劫がっていたのだ。他者を理解するということは、他者の為すことを自分の思考回路で翻訳することにほかならない。だから、理解しようとする人の思考回路の盲点をつく言葉や行動は網の目からボロボロ落ちてしまうか、壁にぶち当たってはね返ってしまうものであるから。B君は何を思い、何を感じていたのだろうか。

 4ヶ月も消息がわからないB君について、栄養失調で死んだか、発狂して精神病棟の住人になっている……そんな冗談が日増しにリアリティを思わせた。記憶に残る1テンポずれた屈託のない笑顔も実は癒しようのない疲労に裏打ちされていたのだろうか。あの笑いは孤独という拷問に耐えかねて、張り上げた音のない金切声だったのかと想いを巡らす。当時の仲間の中で、彼を探そうと思い立ったのは<ぼく>だけだった。彼を高く評価したのも、最も深く嫉妬したのも、最も残酷な冗談のネタにしたのも、<ぼく>だった。

 一体、ロココ町とはどういう場所なのか、果たしてB君の消息は…?<ぼく>の前に現れる怪しい人たち、妖しい光景。ロココ町の色に染まると、もしかしたら貴方の人生が変わってしまうかもしれない。要注意な本である。

408748064Xロココ町 (集英社文庫)
島田 雅彦
集英社 1993-08

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28 島田雅彦の本」カテゴリの記事

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コメント

『ロココ町』は、島田雅彦っぽい露悪趣味が遺憾なく発揮された佳作ですよね。そういう意味では『ドンナ・アンナ』に似てるかなあ。きっとこういう作品は嫌いな人は徹底的に嫌うよね。娘と同じくらいの年齢なんだと思うけど同じような本を読んでいるんだなあと思うととても複雑な気持ちになります。娘は今週はちょっと鬱でパキシルの量が多いようです。なのに僕は何もしてやれない無力な父なのです。

投稿: spring | 2005.03.22 22:09

springさん、毎回コメントありがとうございます。
やっぱり島田作品での書き込みですね。とっても嬉しいです。
私の雰囲気には、島田作品はたぶん合ってないと思われますが、好きなんです。19から夢中になってしまったのです。好き嫌いが激しく分かれる作家さんなので、ブログには小出しにさっと出してるんですけどね…あまり反応がないのです。読書大好きなお父さんだったらすごく私は嬉しいのだけれど、老眼のせいで全く読まなくなってしまって。springさんの娘さんへの気持ちはきっと届いていますよ。そう信じて参りましょう。

投稿: ましろ(springさんへ) | 2005.03.22 23:16

はじめまして、ya-ya-maと申します。
島田雅彦で検索していたら、島田雅彦のファンということでうれしくなって、TBさせていただきました
記事をいろいろ見させていただいたのですが、ものすごく深い考察をされていてとても感銘を受けました。同時に自分の幼稚さ加減を思い知らされました(笑)
最近久々に彼の本を読んだのでまだ読んでいない無限カノンなどをこれから読んでみようなどと思ってます。
『ロココ町』も『子供を救え』も以前読んだのですが、すっかり内容忘れてしまいコメントできません、スミマセン。
是非他の島田作品の書評も書いてくださるとうれしいです!他の方の島田作品に対する意見を聞くのは非常に興味深いので。
それでは失礼します。


投稿: ya-ya-ma | 2005.05.06 01:05

ya-ya-maさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
島田作品のファンの方とは、なかなか出会う機会がないので、とても嬉しく思っております。無限カノン3部作から、何となく島田作品から遠ざかっていたのですが(ブログに載せることを前提に読んでばかりいるため…)、また読んでみようかなぁという気持ちになりました。
それに、お褒めの言葉までいただいてしまって恐縮です。再び、このブログで島田作品のことを取り上げたいと思います。
ya-ya-maさんのまたのご訪問、お待ちしております。今後も宜しくお願い致します。

投稿: ましろ(ya-ya-maさんへ) | 2005.05.06 22:52

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