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2005.03.18

食べすぎてしまう女たち

 心の病のひとつである「過食症」について書かれたノンフィクション本であるジェニーン・ロス著『食べすぎてしまう女たち』。なぜ、食べ物と自分の世界に閉じこもり、後悔しながらもついつい食べてしまうのかについて、苦悩の日々と回復への道のりを赤裸々に明かしている体験記である。サブタイトルには、「愛」の依存症とある。過食癖に陥るのはもっぱら女性。痩せる事へのこだわりと、他者からの評価への過敏(対人恐怖)を特徴とする過食癖は、20世紀の後半から先進都市社会の中にはびこり始めた。嗜癖者は皆、「そのままでいていいよ」という他者からのメッセージに飢えている。このメッセージを「承認」といい、ときにそれは「愛」と呼ばれるらしい。だから、「愛についての病」なのである。

 親との関係で傷ついたジェニーン、母親に見捨てられた子どもとしてのジェニーンの痛みが臨床の現場で接する人々の声と重なって聞こえるようにまで変化している。過去の自分を“犠牲者の物語”から、“それでも生き残った英雄の話”に変えるというエンパワメントの過程なのだが…だから、痛みに耐えられる力を持った大人である自分に気づきはじめている、かつてのジェニーン。「愛を食べていた」ジェニーンが、愛そのものに直面できるような勇気を持ったとき、生じたモノ。それは生々しい寂しさ、怒り、不安であった。これらを受け入れることにより、人生の豊かさを楽しむようにまでなった。

 減量で人生が変わる…そんなことを多くの人たちが思ってしまう。雑誌を買えば、後ろの方のページでは“痩せてこんなに幸せになりました”的なものが必ず載っている。スリムになれば、あるいは愛を手に入れれば、やさしさが人生にもたらされると待ち望み続けたあとでは、スリムになることも、愛を手に入れることも、やさしさや美しさを約束してくれるわけではないと悟ることは大きな打撃となる。

 強迫行動は、感情レベルでの絶望の表現である。強迫の対象となる物質、人間、行動などは、私たちがこれなら絶望を追い払ってくれるだろうと信じているものなのである。絶望。自分の世界がバラバラに崩壊し、それをくい止める手段を持っていないのだという気持ちを、いつも体のどこかに抱え込んでいた。誰かのことを深く愛せば、心の痛みは消え去るはずだった。1つ残らず。一緒に寝たり、話したり、食べたりする人が出来たら、痛みは消え去るはずだと思っていたのに…

 強迫行動に溺れたい人などいない。生き延びるために、発狂しないために、自分のためになるからやるのである。食べ物は私たちにとっての愛である。私たちなりの愛されるという方法なのだ。人は去っていっても、食べ物は去らない。食べ物と愛。これまでの人生でどのように、どれだけ愛されたか、または愛されなかったかが、私たちの過食を引き起こすきっかけとなる。けれど、大人となった私たちが回復を望むのなら、遠い昔に下した自己評価、人を愛する能力、愛される意欲に関しての判断を再検討するのは、自分たちの責任となる。この判断が強迫行動と愛についての私たちの思い込みの源泉となっているからである。食べ物やその他の様々なものにしがみついていては、同時に自分自身や他人と真に愛し合うことは不可能である。心にはそんな余裕はないのである。誰もが人と愛し合うことを選び、愛し愛されることを望んでいる。そして、自分を慈しみ、面倒を見てあげる力、自分を幸福にしてあげる力を手にして。

 過食から解放されることはとても大変でムツカシイものである。必要条件として著者がいくつか挙げているので書いておく。自分にやさしさと寛大さと共感を持つようにと。さらに、努力と献身である。辛くなったとき、逃げ出さないことである。けれど、辛いときにどうとどまるかを知っているくらいなら、私たちは過食症にはなるはずがないのである。それでも諦めずに私たちは実践に励まなくてはならないのである。愛が私たちを変えるのだと信じて。

4062564777食べすぎてしまう女たち―「愛」の依存症 (講談社プラスアルファ文庫)
Geneen Roth 斎藤 学
講談社 2000-11

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コメント

過食・・・どうしても逃れられない辛さ。
吐けないうちは、ぶくぶく太るばかり。
そしてやってくる拒食とリバウンド。

減量で何かが変わるんだろうか?
自分に自信がついたりするんだろうか?
体重がすごく減った時にも増えた時にも
辛さは何も変わらなかった。

食と愛。
うちは、愛を食べて生きたい。

投稿: さゆこ | 2005.03.24 04:03

さゆこさん、初コメントありがとうございます。
もの凄く嬉しいですよぉー★

私も食に関しては少々問題アリなので、
痛い、いたーいお話です…
だけど、私の場合は痩せてから、
かなりがらっと変わったんです。
何もかもが違う世界に見えた…
(↑これは多分、歪んだ主観のせい)

また太って、やっとまた痩せて…
「キレイになったね」と言われた。
ツライ気持ちや心の闇は変わらないけれど、
少しだけ救われた気がした。
(↑これもきっと、歪んだ主観だね)

食も愛も食べられない自分に気づくのデシタ。

投稿: ましろ(さゆこさんへ) | 2005.03.24 22:59

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