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2005.03.16

朝霧

20050223_001 前日に続いて<円紫師匠と私>シリーズの5冊目である北村薫著『朝霧』を取り上げてみた。シリーズを順番に読んでいなくても、わかりやすくて楽しめる北村氏の文章が心地よい余韻として残る。シリーズと共に成長してきた主人公である文学部の4年生の<私>は、無事に大学を卒業し、先生の薦めでバイトをしていた文芸出版社での正式な社員となって、忙しい日々を送ることになる。3章からなる『朝霧』だが、社会人となっても登場人物が一貫性を保っているため、とても読みやすい。大学時代の友人との交流はもちろん、恩師である先生との関係、円紫師匠との不思議な距離感、職場での上司との関係、前作から関わっている田崎先生との関係などなど…主人公はとても器用に人と接していることに気づかされた。

 「山眠る」では、まだ学生。一代の才人は、実は彼らしい死を遂げた、と。高井几董(たかいきとう)という蕪村の高弟について話し、<私>が彼のことを「溢れるばかりの才能のあった人。暗いもの、危ういものを持っていた人のように思えます。」などと答える。そして、田崎先生からこんな言葉をいただく。「いいかい、君、好きになるなら、一流の人物を好きになりなさい。(中略)本当にいいものはね、やはり太陽の方を向いているんだと思うよ」と。

 「走り来るもの」では、社会人3年目。仕事でのお付き合いのある女性の作った小説の結末を問う、リドル・ストーリー。結末までの道筋をある程度示しつつも決着はつけずに、読者に選択を委ねる類の小説なのだ。作者自身が結末は1つだと言い、文章から最後の2つのセンテンスが分かるはずだと言っているため、これは立派なミステリーであると言えるのだ。同じ小説も読み手によって、まったく別のものになる。でも、これには1つの答えしかない。円紫さんは見事にすんなりと答えを見つけてしまった。

 「朝霧」では、職場の先輩同士の結婚式。同じ出版社の2人である。一番下っ端の<私>は、受付を担当する。と、その結婚式にて、前作『六の宮の姫君』で隣の席で「レクイエム」を聴いた男性がスピーチをしているではないか…その時に彼が手にしていた本を密かに探していた<私>。ロッジの「素敵な仕事」をたまたま読んだら、おもしろくてたまらない。そして、他の作品をあたっていくうちに、彼が読んでいた「交換教授」と出会ったのだった。あの時、隣で本を読む人に近しいものを感じた。そして、縁があるのならもう一度会えるだろうとも思っていたのだった。しかし、それは偶然ではない裏事情があったのだ。

 また、<私>の祖父の残した日記に登場した暗号めいた漢字のつらなり。それが何を意味していたのか、果たしてどんな背景があるものなのか、その謎を探るのだった。円紫さんにヒントをもらいながらも、自分の力で答えに辿り着き、祖父の想いを知ることとなる。切ない恋心…。読書好きだった祖父。自分の孫に日記を興味深く読まれ、謎まで解いてもらえて、さぞかし嬉しいことであろうと想像する。それにしても、主人公の家族はどうやら母親と姉以外はみな読書好きな様子。家にもたくさんの本があるに違いない。羨ましいかぎりである。

 そして、主人公にも春が来たのか?来るのか?そんな予感…

4488413056朝霧 (創元推理文庫)
北村 薫
東京創元社 2004-04-09

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» 『朝霧』 [もみじの本屋]
『朝霧』 (創元推理文庫)著:北村薫シリーズ第5作である今回は、「私」は卒業論文を書き上げ、大学を卒業。小さな出版社の編集者として働きはじめる。この本には「山眠... [続きを読む]

受信: 2005.04.05 10:21

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