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2005.03.12

格闘する者に○

IMG_0036gg タイトルに惹かれて三浦しをん著『格闘する者に○』を読んだ。7章からなるこの小説は、志望・応募・協議・筆記・面接・進路・合否からなる。漫画を読むことが大好きでたまらない文系の学部に所属する大学4年の可南子。就職活動はかなりのマイペース、大学の授業も真面目に出席しているとは思えない。義母と、義母の子どもである高校生の弟と暮らしている。父親は政治家らしいのだが、滅多に帰らない。漫画喫茶にて、5時間で18冊の漫画を読み、「そろそろここを出ねばならぬ」なんて一文でこの物語は始まる。

 重い腰をあげてハガキやエントリーシートを出したものの、「平服にておいでください」と書かれているのをそのまま素直に受け取って、気合いを入れた可愛らしいタックの入ったカーディガンに黒いスカート、黒いストッキングにインパクトのある膝下までの豹柄のブーツ(決して下品ではない)という可南子曰く完璧なるコーディネートで出かけてしまう。見事にリクルートスーツで埋め尽くされた会場の最前列で「適性検査(SPI)試験を」受ける。しかも、SPIをスパイ(SPY)の適性を確かめるテストなのだと勝手に解釈したまま…

 可南子は喫茶店にてアルバイトをしており、そこの常連である西園寺という書道家の65~70歳くらいの恋人がいる。可南子の脚がとても綺麗だと言い、サンダルを履いた足の小指に爪があることを確認してから誘ってきた。アルバイトの3回に1回は顔を見せてくれるのが暗黙の了解で、頻繁にやってきては嫌われると思っているらしかった。もうおじいさんなのに、可愛いと思ってしまう。誰が何を言おうと、相思相愛でメロメロなのだった。が、しばらく姿を見ないので「私は捨てられたのか?」と。普通なら若い娘の方がおじいさんを捨てて、町をでたりするもの。ジジイめ、許せん。「西園寺さん、昨日お葬式だった」と聞き、急いで訪ねてみるのだった。

 微妙な均衡で保たれている可南子の家族。母親の記憶は全くと言っていいほど無かったし、父が家に寄り付かなくなってからは、共に生活する人間を「家族」というなら、可南子にとってそれは義母と弟であった。可南子の母親の位牌に手を合わせることはなく、その存在があったことは「家族」にとって禁忌である。可南子は自分の存在が「家族」の在り方を不安定なものにしているのではないかという疑惑を、義母が弟を生んでからずっと抱えていた。自分の存在の異物さを突き付けられたくない。父が家に戻れば、その事実がさらに強調される。父はもしかしたら、そんな気持ちを察しているのかもしれなかった。

 毎日ラッシュの電車に詰め込まれて運ばれながら、決まった時間に会社に行くことなど果たして私はできるのだろうか?そんな不安を抱えたまま、漫画好きな可南子は就職活動を出版社にしぼり、いくつも就職試験を受ける。何千人もの中から選ばれるのは20人ちょっと。女性は5、6人。狭き門である。SPIはともかく一般常識問題百題+漢字の書き取りテストがあるところもある。会社が求める「常識」の範囲は幅広く、文学、映画、ファッションから政治経済、時事問題、流行物まで多岐にわたった。それなのに、試験官が漢字の読み間違いに気づかない矛盾。写真1枚を選んで原稿用紙5枚に物語を紡ぐという作文のあるところもあった。その後、面接が待っているのだが、何ともいい加減なやり取りにあきれてしまう。笑えるほどに。なぜか毎回、運動とかスポーツをするかと聞かれる。あまりにもくだらない質問をする面接に、編集という職に就いている人に対する幻想や憧れが崩れる可南子。格闘技でもやっていれば…などと思うのだった。

 春からの様々な出来事。義母はいつもどおり口うるさいのだが、何か諦めにも似た潔い決意があった。常に何者かの視線を気にしていた義母が、初めて自分の子どもたちの顔を見つめていることに気づく。「おかあさん」そう呼んでみる。劇的ではない生活の中で、劇的なことは何もないままに、それでも何かを修復できたのだと感じる可南子。じーんとくる。これがデビュー作?すご過ぎる。三浦しをん、24歳にて書かれた作品は才気に満ち溢れていた。

4101167516格闘する者に○ (新潮文庫)
三浦 しをん
新潮社 2005-03

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コメント

はじめまして。
メッセージ&TBありがとうございました。
(実は、柊もゆらさんのところからちょくちょく
ましろさんのページへとお邪魔してました 笑)
三浦しをんさん、作品ごとにイメージが変わってくると聞いて
柊も興味津々なのです。
いずれはすべての作品を読破したい!と思っているのですが…☆

これからもどうぞよろしくお願いします。

投稿: | 2005.03.22 08:58

柊さん、コメントをどうもありがとうございました。
私もぜひとも三浦しをんさんの作品を読破したいです!
久しぶりに要注目の作家さんの存在ができたので、
今後の読書の幅が広がりそうで楽しみです。
ブログ、見てくださっていたのですね…
嬉しいです。かなり。とても。すごく。

こちらこそ、これからも宜しくお願い致します!

投稿: ましろ(柊さんへ) | 2005.03.22 14:05

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