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2005.02.08

ミシン2/カサコ

 『ミシン』のその後を描いた嶽本野ばら著『ミシン2/カサコ』。前作を読んだ人にとっては、「えっ?」「はっ?」「あの結末だったのに…」と文句が出てしまう作品であるものの、主人公の天然を通りこした常識はずれのボケっぷりと心に闇を抱えた人間の心模様とが、あまりにもさらりと描かれている不思議な作品。トーンの違う2つのものが一緒にたっぷりと詰まったこの本。好きか嫌いか著者のファンでも分かれてしまうのでは…と思われる程、型破りなものである。

 様々な話題性を持ち合わせて一気に人気を獲得し始めたミシンがボーカルを担当するバンド。その新しいメンバーとなった少女は、ミシンにより“コウモリ・カサコ”と命名される。ミシンと暮らし始めて、これまでの目立たないパンクとかけ離れた生活が一変する。両親や周囲の反対を無視して、バンドのギターリスト・カサコとして(でもほとんど弾くことが出来ないのだが…)。一方、前のギターリストである竜之介の死を引きずったまま、壊れてゆくミシン。

 「壊れていることを忘れたくて、痛み、忘れたくて、傷の上から傷を付けていくんだ。私、何してるんだろう。何で生きてるんだろうっていう疑問が足許から這い上がってきて、私を支配しちゃうの。でも、ステージでオーディエンスを前にして歌っている時だけは、そんな、不安……のようなものから逃れられる」と。病院でカサコに「死に損なったから、歌わなきゃ、仕方ないよね」と囁いたミシンは、ステージの上で歌うことでしか、竜之介の死に拠ってもたらされた喪失感や、生きることの苦しさから、逃れることが出来ないのだった。過激なステージアクト、絶叫、咆哮(ほうこう)は、自分自身を完全に破壊してしまいたいという、死への衝動から派生しているのだった。そして、新たな出来事がミシンをさらに追い詰める。

 ライヴで救護室に運ばれたのは約20名。そのうち救急車で病院に搬送されたのが2名。そして翌日、1名が死に至ってしまう。シンナー中毒の18歳の少女が酸欠に拠る窒息死。しかも、その子はミシンがよく知る熱狂的なファンの一人であったのだった。直接の原因はライヴではないが、予定されていたライヴは中止となる。

 誰よりもきっと脆くて、人の気持ちに敏感で、それが悲しいものであっても各々が持つ想いに、同調してしまうミシン。どんな人に対しても悪態を吐き、意地悪く振る舞うのは、人々が貴方に向ける期待や憧れ、そんなものに真正面から対峙すれば、抱えきれない重圧で息が出来なくなってしまうからだったのだと気づくカサコ。人の痛みを自分の痛みとして、受け入れてしまう。そして、感受性が鋭過ぎるのだった。だから、生きていく為に他者との関わりを最初から拒否するしか術を見つけられなかった。自分で自分を切り付け続けることのほうが、誰かに傷付けられるよりもマシだった。皆、人は移り気であることを知っている。でも、ミシンに忘れたり、仕方ないからと妥協することを求めるのは無理。一旦、なついてしまうと、なつかれてしまうと何時までもその人のことを大切に想い続ける。それがミシン。真っ直ぐにしか進めないのがミシンなのだった。

4093861412ミシン2 カサコ
嶽本 野ばら
小学館 2004-07-01

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» 『えぼまく倶楽部』ファンの皆様へお詫びを込めて
『ミシン2/カサコ』読書感想文
[Art Grey]
念願の『ミシン2/カサコ』をやっと読み終えた私の読書感想文…のようなもの。 [続きを読む]

受信: 2005.02.20 02:01

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