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2005.02.07

ミシン

 自らが乙女として生きる為に全てを犠牲にすることができる少女。流行りに左右されることなく、古いものにしか興味のない性癖。そして、エスという資質を持っている。少女が心奪われるのは同性ばかりで、エスを生涯貫いた吉屋信子の「花物語」の世界に強く惹かれている。そして、美しく儚くロマンチシズム溢れるエスの交流がかわせそうな人を求めている。そんな少女が求めていた人物そのものの美少女ボーカリストに恋い焦がれる激情を描いたのが、嶽本野ばら・著『ミシン』(小学館)である。短い小説ながら、とても深い印象を残す。

 主人公は自らのことをチビでデブで、性格が暗く、まるきりいいところがないと思っている。けれど、貴方を見つけてしまった。パンクバンドのボーカリストであるミシン。彼女こそ理想のエスの相手であった。透き通るような白い肌、少し吊り上がった大きな眼、高い鼻、薄い唇を持ったミシンは、清楚で気品のある顔立ちをしているのに、髪を思いきり立ち上げ、黒いリップを塗り、はすっぱなイメージを作り上げているのであった。ミシンはMILKの洋服を好んでいることを知り、お店に通うようになる主人公。いつの間にか、お店の人に顔を覚えられ、「ミシンさんが先程買われました」というものを買いまくる主人公。すっかり、ミシンとMILKの虜になっていく。

 そして、いよいよミシンに近づける日が来るのだった。全身をMILKで纏いライヴに行き、ミシンが、ギターを担当している竜之介と一緒に暮らしており、恋仲であることは半ば公然の秘密であることを知ることとなる。ライヴ後、会場から出てきたミシンは何と主人公とまるきり同じ服装をしていた。愛想のないミシンは俯いたままハイヤーに乗ってから、ちらりとその存在に気づき、窓を開けてにっこりと大声で主人公に向かって言う。「貴方、私と全部、お揃いね。素敵!」と。ミシンがファンに話しかけることも、笑顔を見せたことも初めてのことだった。

 そんな出来事から、主人公は登校前と下校後に参拝をするようになる。願うことは「ミシンと私が強く結ばれますように。2人がエスの関係になれますように。竜之介が死にますように」であった。偶然にも竜之介はあっけなく交通事故で亡くなり、新しいギターメンバーを一般から公募するとの発表がある。ギターの弾けない主人公は、玩具のようなギターで練習するも全く上達せず、ストリートミュージシャンのデモテープと嘘の履歴書で応募し、面接までこぎつけ、再びミシンと会うこととなる。「あの時もお揃いだったけど、今日もお揃いね」とにっこりするミシン。そこで、本当はギターが弾けないことがばれてしまうのだが、ミシンは「新しいギター、このコにするわ」と言い、「私、全然弾けもしないのに、この面接までやってきた貴方の出鱈目さが、好きよ」と囁き、素早く強く抱きしめた。

 バンドのメンバーとなり、ミシンと親しくなった主人公は、竜之介との関係について知ることとなる。「私は竜之介のギターでないと、歌えない」、「竜之介は永遠になったのよ。不変の存在になったのよ。私も永遠の世界の住人になりたい」と言うミシン。そして、竜之介の追悼ライヴで最後の曲が終わったら、ステージ上で、ギターで後頭部を思いきり殴って欲しいと主人公に願うのだった。きっちりと死ぬまで…

 ここで終わって欲しい気持ちがあるのだけれど、続編アリ。

4093860629ミシン
嶽本 野ばら
小学館 2000-10

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