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2005.02.05

コッコロから

20041128_019 「100万回生きたねこ」や「おじさんのかさ」などの絵本作家として知られている佐野洋子著『コッコロから』(講談社文庫)を読んだ。何とも心がほっこりするような愛の溢れた素敵な小説だと思った。10年以上前に書かれた作品なのに、ファッションも古くさくなくさらりと読めた。登場人物たちもどこかおかしいような気もするが、愛くるしい人物ばかりであるし、女性からは反感を買うようなムカツクタイプの女性に対してもそれ程イライラしたりもしない。あぁ、いるいるこういう人と思う程度である。むしろ、主人公の亜子ちゃんの方が素直でまっすぐで純粋に育ち過ぎるのではないか…と少々イラついた私は、ムカツク女なのだろうかと思ってしまった。けれど、そういう私もある意味亜子ちゃんタイプかななどといい方に解釈して読み終えた。

 主人公・亜子ちゃんは美大生のお年頃の清く正しい娘である。他人が安心する心休まる顔、何か人を無警戒にしてしまう顔、敵意を喪失させる顔を持つ、こけし顔の亜子ちゃん。おおらかなのびやかな嘘っぽさのかけらが1つもない開けっぴろげなのに自然体の家族愛のもとで育った亜子ちゃん。でも、恋人のいない、美という言葉から遠い存在であった。自分自身の容姿や何らかのコンプレックスのある人ならば、彼女に共感するかもしれないが、亜子ちゃんはもんのすごい可愛いブスなのだった。ただのブスな自分とは違うと気づいたときには、もう既に読者はすっかり亜子ちゃんの虜になっているのである。亜子ちゃんの言動や行動や初めての恋に夢中。恋愛を知らない亜子ちゃんのマイペースな心の変化は、今どきの若者からしたら驚きかもしれない。周囲や友達の恋愛話は、あくまでも彼らのモノであり私のモノとはならないことをちゃんと知っているのだった。

 突然出会った男性は、顔はジョン・ローン似、東大法学部、実家は世田谷区のお屋敷、車はカマロやベンツ、ドイツ語とフランス語と英語が堪能であり、軽井沢に別荘まである。けれど、亜子ちゃんにとってはあまり意味のあるものとして描かれてはいない。愛されていると日々実感しながら、亜子ちゃんは飛躍的に成長している。そして、もしかしたら自分も亜子ちゃんに私もなれるのではないかという思いにもさせてくれる。私たちは表面的なものを全部取り除いて、自分の目で鼻で指で舌で「コッコロから」の声に耳を傾けなければいけないときがくるのだと教えてくれる。自分自身を肯定さえすれば、それはとてもたやすいことなのではないかと、感じることが出来る。

 「コッコロから」の中で、特に亜子ちゃんがお風呂の中で自分の手足を見て思うところが私は好きである。初めてしみじみ自分の手足を見て、“すべすべしていて、白くて、すんなりしてさわるととってもいい気持の柔らかさと弾力。けっこうきれい。これ私の手と足なんだあ。なんだか初めてとっても大切なものだと思った。”そして、“鏡で顔も映してよっく見たら、私、自分の顔気に入ってた。ま、いいか、これでって気分。”と思うところ。美人は客観的で、可愛いは主観的なのかなどと考える。そう言えば、私も自分の顔をそこそこ気に入っている。けっして美人ではないけれど、なかなか可愛いのではないかと。人形で言うなら、バービーやブライスじゃなくて亜子ちゃんと同じこけしである。

 私の幸せは、このこけしちゃんの私が丸腰でつかみとる。
 これから私の本当の人生が始まるんだわ。

 身も心も成長した亜子ちゃんを見習って、私も幸せをつかみたい。しっかりと地に足をつけて自分の力で。これからの未来に期待と希望と夢を持って。でも、今の私には絶望と憂鬱の占める割合が多過ぎる。素直で純粋でまっすぐなんだけれど、かなりワガママで偏屈かもしれないなぁ…と自己分析してしまった。

4062735121コッコロから (講談社文庫)
佐野 洋子
講談社 2003-04

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コメント

 佐野洋子さんの作品は、ずっと後になっても、何か残るものがあるような気がしますね。読んだときにはなんとも思わなかったようなことが、あるとき、突然実感が伴ったかたちで、思い出されたり。
 初恋は僕は何時だったかな~、好きな人を意識するようになると、自分の容姿がやはり気になりますよね。髪形変えてみたり、マルイや伊勢丹の店員に騙されてみたりとか(笑)。
 亜子ちゃんは誰しもが一度は通過する道なのかもしれませんね。僕は地味なほうですが、自分にもそういうときがあったんだな~と懐かしいです。

投稿: るる | 2005.02.07 00:22

「コッコロから」、懐かしいです。
当時これ、何かの雑誌に連載されていて(確か「オリーブ」?)、毎号、発表と同時に読みました。
その頃佐野洋子さんのエッセーか何か、サバサバと辛らつなのを読んだ後だったので、
え?こんな可愛いのを佐野さんが書くの?とか思った記憶があります。
でも毎号楽しみに読んでましたよー。
挿絵もね、可愛かったんですよ。(もちろん佐野さんの絵です。)

佐野さんて、
なんでもまっすぐみつめた感じの文章が時々怖い感じにドキンとしたりもするんだけど
でも可愛いな、と思えることもたくさんあって、不思議な感じに気持ちいいです。

それからましろさんの最後の2行。
私みたい。(笑)
私のこの年になってこの2行に当てはまるっていうのも、なんかね、という感じなのですが…。
かなり生きにくいです。(笑)
まぁ、私の場合、ただワガママなだけなのかもしれないんですけどネ。

投稿: ゆら | 2005.02.07 16:07

るるさん、コメントありがとうございます。
佐野洋子さんの作品に対する思いは同じです。特に絵本での絵の力強さと何気ないのに印象に残る言葉には、やられてしまいます。

私も地味な方ですが、容姿も恋愛も。というか色々なトラウマを抱えているので、本当の恋愛はまだ未経験な気がします。悲しいかなこの歳で…(恥)初恋は早かったんですけどねぇ。現在、ときめきを忘れかけております。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.02.07 20:52

ゆらさん、コメントありがとうございます。
リアルタイムで読んでいたのですかぁ!!びっくりです。マガジンハウスなので、掲載されていたのは多分オリーブで間違いないと思います。10年以上も前…私もオリーブを読んでいたはずなのに、記憶がありません。なぜでしょう?

ちなみに文庫化されたのは、2年前で角田光代さんの解説付きです。挿絵もカラーでいい感じですよ。「コッコロから」を書店で見つけるまで、佐野洋子さんが小説を書いていることすら知りませんでした。他の本(絵本以外)もこの機会に読んでみようと思いました。

それから、ゆらさんって私とやっぱり似ているのでしょうか…?私もやはり生きにくいです(笑)かなり。すごく。お互い頑張ってみましょうか?力を抜いてそこそこに…

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.02.07 21:07

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