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2005.02.21

ジョゼと虎と魚たち

 ずっと観たかった田辺聖子原作の映画『ジョゼと虎と魚たち』をDVDにて本日やっと鑑賞した(遅すぎですが…)。2回も。昭和時代に描かれた原作を平成バージョンにしてあるような…でも建物&セットは思いっきり昭和のままだよなぁなどと思いつつ、池脇千鶴のジョゼはかなりしっくりはまっているように見えるけれど幼過ぎではないかとも思いつつ、最後の方の顔があまりに変わっていた(一気に老けていた)ので、妙に納得して楽しんだ。くるりの音楽がとても合っていていい。じんわりと胸にずーんとくる映画であった。

 映画は映画でよかったし、小説は小説でよかったのだけれど、私の思い描いていた「ジョゼと虎と魚たち」のイメージとは少し異なっていた気がする。唯一全く同じだったのは、ジョゼが恒夫に「アタイ、好きや。あんたも、あんたのすることも好きや」という名ゼリフぐらいだろう。あとは動物園で「一番怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎を見たい、と思うてた。もし出来へんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうがない、思うてたんや」という内容のせつない言葉がかなり忠実に原作の色を残していた。

 足が悪いジョゼは映画では乳母車に乗っており、年老いた祖母に散歩に連れて行ってもらっている。祖母曰く「コワレモノ」であるジョゼことクミコは、世間体の悪いみっともない存在として描かれ、人があまりいない時間帯にしか外へは出られない。原作では初めから車椅子に乗っている25歳の女性なのだが…。この「コワレモノ」という言葉は映画の中で一番心にグサリとくるものであった。ジョゼが人間としての扱いを受けていないような、祖母にとってはお荷物でしかないような悲しく閉ざされたジョゼの境遇を思わせるものだった。「コワレモノにはコワレモノの領分がある」というようなことまで言われ、ふとしたきっかけでジョゼと出会った恒夫との関係も終わらせてしまう。原作では恒夫が自分のことにあけくれた日々のせいでジョゼとの交流がしばらく途絶えたことになっている。

 また、ジョゼはかなりの読書家であり、サガンの小説から「ジョゼ」という名をもらっている。そして、その本は全て祖母が捨てられていたものを拾ってきた設定に映画ではなっていたのだが、原作では市役所からサービスを受けていて無料で貸し出されて読んでいることになっている。映画では、ジョゼの祖母は何の保護も受けていなかった。また、恒夫をめぐって女同士で殴り合うシーンも不自然な気がしたものの、足が悪いことを気を惹くための「武器」として考えるところは、妙に人間っぽい気がした。これは昼ドラか?とも思えるけれど…。女というものは時には様々なものを自分の武器にするのだから。他にも「あれ?」と思うところが多々ある。そこまでして身障者に対する偏見があることを描きたかったのだろうかと。それとも偏見に屈しないジョゼの心の強さを描きたかったのだろうか。きっと、どっちとも思えるようになっているのだろう。

 そして、結末についてもかなり原作と映画とでは異なっている。原作のラストは、幸福な幻想的な雰囲気を漂わせていて静かな余韻が残る(さすが田辺聖子!的な)のだが、映画版は泣けるつくりになっている(こちらもまたよし)。あまりにもあっさりとした別れ。その理由は明らかにされないまま、次の相手の元へかけ寄るちゃっかりした恒夫。そう見せておきながら、実は恒夫は……状態なのである。これが多分メインディッシュかと思わず思ってしまった。なので、書かないことにしておこうと思う。このシーンひとつであのあまりにもあっさりとした別れが余計せつなく感じさせる。そしてジョゼは、逞しく30キロもスピードの出る電動の車椅子でビュンビュン風をきって買い物をし、凛とした表情で料理を作り、前しか見ていない様子に見えてしまう。男性はきっと恒夫に感情移入してしまうから、「女って強いよなぁ」的視点でジョゼを見てしまうかもしれない。けれど、女の私はその逞しく見える背中を見て、心の中では泣いているジョゼを想像してしまう。表面には見せなくても。

4041314186ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)
田辺 聖子
角川書店 1987-01

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コメント

『ジョゼと虎と魚たち』はちょっと前に見ましたよ。原作は見てないですけど。
ラストはちょっと意外で切なかったですけど逆にリアルに感じました。でもジョゼはちょっと悲しいですね。あの後も強がって生きていくんでしょうか。

投稿: ユーキ | 2005.02.22 00:06

ユーキさん、コメントありがとうですぅー★
ジョゼ、とってもせつないですよね。
DVD特典の解説付きによると、
電動車椅子がジョゼの今後を表してみたそうで…
妻夫木さん曰く「もうやってられないわ」
というジョゼの気持ちそのものみたいだとか。
しかも、あれはアメリカ産の特注らしいですよ。
小説は短編なので、かなり短いですが幻想的な
ラストで終わっています!原作もいいですよ。
でも、女性向きかなぁ…男には知られたくない
女の心情が書かれているから。

投稿: ましろ(ユーキさんへ) | 2005.02.22 01:55

なんてタイトルか忘れたけど、ダウン症の子を扱った映画で、その子の両親は英才教育を施したりして一生懸命にダウン症の子を普通の子に追いつかせようとするんだけど、最後にダウンしょうの子の口から、「もう、ダウン症はこりごり」とかいう言葉が出て終わる映画がありました。そういうのが正直な感想かもしれませんね。

投稿: るる | 2005.02.22 02:05

ちょうど同じ時期に同じ映画を見ていた人がいたなんて驚きました。僕はこの間WOWOWで途中から見て感激し前半が気になってレンタルしてきて見たところでした。角田光代もほとんどシンクロして読んでるし、川上弘美や小川洋子ファンなのもなんだか嬉しくなってしまいます。これからもう一本借りてきた大江健三郎原作の『静かな生活』のDVDを見る予定です。僕の娘はちょっと心を病んでいて心療内科に通っています。このブログを読んでいるといろいろなことを考えさせられます。時々頑張れと言ってあげたくなります。年のせいかも。

投稿: spring | 2005.02.22 20:32

るるさん、コメントありがとうございます!
私も「病気はもうこりごり」&「通院もこいごり」です。ジョゼは口には出さないけれど、やっぱりこりごりなのかなぁ…強がる姿が痛くて。私もジョゼのように、いろんなことを諦めて生きてきたので、短い時間だったとしても、ジョゼは幸せだったのだろうなぁと思うんです。一瞬でも幸せな時間を過ごせたジョゼが羨ましくおあり、悲しくもあり…です。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.02.22 23:13

springさん、はじめまして。読んでくださり、コメントまでいただいてしまって、ありがとうございました。読書の傾向は似ているみたいなので、とっても嬉しく思っております。

娘さんの状況は分かりませんが、回復を願っております。私が本格的に壊れ始めたのは11デシタ。自ら自分の症状を認めるまでに10年かかりました。もっと早くに治療を受けていたら、また違った人生を歩んできたのでは…と。後悔です。でも、実際に自分がそんな存在になってみると、今まで感じることが出来なかった経験がたくさんできました。

娘さんには、「頑張れ」ではなく「今日も頑張ってるな」と言ってあげてほしいです。そして包んであげて欲しいです。たぶん、娘さんなりに必死に生きていると思うので…生意気言ってすみません。

投稿: ましろ(springさんへ) | 2005.02.22 23:25

たまたまぶらりと寄った映画館で観た『ジョゼと虎と魚たち』ですが、大学卒業前に足に障害のある女性と短い期間ですが付き合ったので、何か自分と重なって切なくなりました。

私が思う以上に相手が強く思ってくれたのは良いのですが、当時はそこまで人を強く必死に愛するということを私は出来なかったので、恒夫同様に相手が重くて耐えられなくて逃げた形にまりました。最近DVDを購入して毎日観てます。

女性の率直な感想が知りたかったので、感慨深い気持ちで、ましろさんのコメントを読ませて頂きました。ハッピーエンドにしない所が作品性を大事にした日本映画らしいですね。アメリカ辺りなら数年後、恒夫はデートで動物園に行き虎の前でジョゼと出会い、二人は・・・みたいなオチを期待したんですが、こんな妄想こそ男ならではでしょうかね。

長文ごめんなさい。

投稿: たぁたん | 2005.03.10 20:13

たぁたんさん、はじめまして。コメントありがとうございます!

きっと、男性の視点と女性の視点は違うのでしょうね…人と人とが付き合うことに対して「重たい」と感じるのは、どちらかというと男性の方かなぁと私は思ってしまうのですが。私も「重たい」と言われたことがあるせいでしょうか?初めは興味津々なのに、いつの間にか変わってしまう気持ち…痛いです。とても。

矛盾ある考え方かもしれませんが、男性にはやっぱり強くあって欲しいし、支えとなって欲しい。自分を理解してくれて、守ってもらいたい。それがダメなら、独りでも強く生きてゆきたいなどと私は思っています。って…まるでジョゼじゃない?

完全にジョゼモードと化しております。そんな私にも「重たい」のOKの方との出会いがあったんですよ。世の中にはいろんな方がいるものです。

投稿: ましろ(たぁたんさんへ) | 2005.03.10 22:16

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原題: ジョゼと虎と魚たち 監督: 犬童一心 製作: 小川真司 製作総指揮: 久... [続きを読む]

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