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2005.02.16

悲しい本

 タイトルだけ見ただけなら、ただの暗い内容の話かと思ってしまうが、これから先の希望や救いの象徴であるロウソクのぬくもりが温かなマイケル・ローゼン作、クウェンティン・ブレイク絵、谷川俊太郎翻訳の絵本『悲しい本』。大人のための絵本の部類になるのだろうと思う。悲しみという感情は誰もが経験することである。この本の場合は、最愛の息子を失ったひとりの男のどうにもならない悲しみを描き出している。

 誰にも、
 なにも話したくないときもある。
 誰にも。
 どんなひとにも。
 ……私の悲しみだから。
 ほかの誰のものでもないのだから。

 こういう文章を書けるというのは、深く心にいつまでも残るような傷を持っているからではないだろうか。自分の悲しみを自分一人で、そして独りで抱え込むことは、とても難しい。人は一人では生きていくことなどできないのだから。誰かの何らかの助けを借りながら、深い深い悲しみから這い上がるのだ。それが長い時間や歳月がかかろうとも、生きるためには、乗り越えなくてはいけない。何度も何度も壁にぶつかりながらも。

 「私の悲しみ」には、ほかの誰かが必要である。悲しむ私に共感してくれる誰か、悲しむ私を愛してくれる誰かが必要なのである。絵本の中には“私は消えうせてしまいたい”という言葉も出てくる。この言葉は、私にとってはかなり身近なものである。些細な言葉に傷つき、理由もないのに落ち込み、過去も今も何度も自分の心の中にこの言葉は浮かんでは消えてゆくのだった。そして、何日も鬱々と悩んで「あぁ、生きよう」と思うようになる。生きなくてはいけないのだと。

 この絵本の最後のページには、悲しみにくれていたひとりの男性のこれからの行く先を照らして守ってくれるような温かなロウソクの炎が印象的である。今夜、私がなかなか眠りの世界に入れなかったら、ロウソクを灯そうと思う。安物のアロマキャンドルだけど、炎の灯りを見つめて自分の将来のことを少し考えてみるのもよいかもしれない。逃げてばかりでは何も変えることも変わることもできないのだから。

425100941X悲しい本 (あかね・新えほんシリーズ)
クェンティン・ブレイク 谷川 俊太郎
あかね書房 2004-12-10

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