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2005.02.01

漢方小説

gulensetuzoku 救急車で運ばれるところから始まる小説って、どんなだろうという好奇心から読み始めた中島たい子著「漢方小説」。南伸坊氏の装丁・装画もシンプルで温かくてなかなかいいし、第28回すばる文学賞受賞作品である。気になる。気になって仕方ない。

 胃薬を飲んで全身がふるえだしてしまい、救急車で運ばれたものの、原因がわからずに病院を転々とする主人公。保険証のカバーに書かれている『病院などを転々とすると、一貫した治療が受けられなくなり、病気の回復を遅らせる場合がありますので気をつけましょう』を『国民の健康のことなんか本当はどうでもいいんです。とにかくやたら医療費を使うな』と解釈してしまうところがおもしろい。検査結果は異常なしで、30過ぎの女がぐたぐた言ってる時点で医師たちがはなから相手にしてくれないのでは…と思ったり、3分診察に苛立ったり…ちょっと待った、この被害妄想じたいが病んでいるのだろうか。医師たちが遠回しに言うように、やっぱりイカれているのは体ではなくて精神の方か?「最近なにかストレスを感じるようなことがありませんでしたか?」の問いにもいぶかしがる主人公。真顔で聞くようなことだろうか?と。ストレスを感じない日など1日もなく今まで生きてきた。逆に人間からストレスを奪ったら、一体何が残るのだろう?心療内科やカウンセリングに行ってそれを始末してこいと言うのは、自分の一部を捨ててこいと言われているように聞こえるなどなど…

 ふと主人公は思い出す。子どもの頃から喘息持ちで、漢方医に通っていたことを。東洋医学という選択肢が残されていたのだと。そして、いざ行ってみると病院の先生は予想外に若く「どうしました?」と聞かれて「どうしたもこうしたも、何でその若さで現代医療に背を向けて漢方なんですか?」と聞きたくなる主人公。しかし、西洋医学ではそろって首をかしげられたのに、東洋医学では特に珍しくもないという表情で迎えられ、不安が肩から抜けていくのを感じ、頼もしく先生の声が聞こえてきてしまう。民間療法などの実証主義はわかるけれど、東洋医学の陰陽ナントカは、結局は跡付けじゃないかと友人に指摘されたりもするが、こじつけで治るのは結果的に2000年の臨床治療があることなのだろう。けれど、西洋医学というお手本がある以上、どうしてもそれはうさんくさくなってしまう。漢方治療をする若い医師は「病気によっては西洋医薬でバーンと治しちゃった方がいいのもありますけどね」と言ったり、検査結果をチェックしたりもする。バーン?と思うものの、東洋と西洋を臨機応変に使い分ける先生の診療にときめいてしまう主人公。口には出さないが、(先生の)笑顔がもうドキューンな…などと。

 私たちは、何かに頼るのはいけないことで、自分の力だけで本来は生きていかなくてはいけないと主人公のように思ってしまっているところがある。病気がよくなって薬を飲まない日が来るかもしれない。医師に診療してもらわない日が来るかもしれない。そうしたら、また自分の力だけで生きていかなくてはいけない。そして、それは厳しい現実でもある。

 喜びは悲しみに勝ち、悲しみは怒りに勝ち、怒りは思いに勝ち、思いは恐れに勝ち、恐れは喜びに勝つのだそうだ。主人公は、これらの言葉に自分を振り返ってみる。あれこれ思い悩んでいたけれど、それは病気という恐れを自ら克服しようとしているからだと。「変化を恐れない自分になりたい」のではないだろうかと。治療を機に東洋医学について学んだ主人公が何だかたくましくなったように思える後味の本であった。

4087462560漢方小説 (集英社文庫 な 45-1) (集英社文庫 な 45-1)
中島 たい子
集英社 2008-01-18

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37 中島たい子の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

ましろちゃん、コンバンハです☆
「漢方小説」気になってしまいました!

自分自身の事と、重ね合わせて
小説をイメージしてしまったからかもしれないんですけど!

「『国民の健康のことなんか本当はどうでもいいんです。とにかくやたら医療費を使うな』と解釈」
「ぐたぐた言ってる時点で医師たちがはなから相手にしてくれないのでは」
とか
「イカれているのは体ではなくて精神の方か?」
などなど・・・

そして、行き着く先が、「東洋医学」。
わたしは、その医師による「東洋医学」が
どのように、主人公に影響していくのかが、とっても気になるのです!!

実際の自分に、何か影響力がありそうに思える1冊になりそうな気がしたんです☆

頼る生活(薬でも人でも)を送っていることを、違う角度から見る事が
出来るような気がしたのでした。

これを読んだら、私でも、ひとつ、成長できるでしょうか??!!
どうでしょう!ましろちゃん!


投稿: 月子 | 2005.02.04 02:07

月子さん、はろぅです☆
コメント、ありがとうです。

私も同じく自分と重ね合わせて読んでましたよ。
色々と詳しくわかりやすく東洋医学について書かれていたのですが、その歴史は難しい&解釈はうさんくさい感が少々…それは人それぞれですが。

でも、私は漢方と西洋医学のお薬を併用していたことがあるので、小説としては楽しめました。どうやらバーンと治す方が向いているみたいなので、漢方は止めてしまったのですが…

頼る生活については、とても考え深いところです。病気を治したい気持ちと病気をとったら私は一体どうなるの?と言う気持ち。色々と想いにふけりました。そういうことを考える機会に恵まれただけでもこの本を読む価値はある気がしました。

精神科は敷居が高いし、偏見が根強いものなので、自然治癒を優先している東洋医学はその点がいいところかなと思います。何よりも精神面が強くなる気がします。確か、映画「マイ・ライフ」にも東洋医学が出てきましたよね。癌を宣告された主人公が最後に辿り着いた治療法として。

とにかく、自分に合った治療法と出会えることって重要な気がします。こんな治療もあるんだなぁという寛大な気持ちで読めたら、きっと自分の中に治癒力があるのかしら…と思います。

投稿: ましろ(月子さんへ) | 2005.02.04 12:38

はじめまして。ましろさん。
「ゆらbooks」のゆらです。
リンクありがとうございました。
こちらから先にリンクをさせていただきながら、ご挨拶が遅れてすみません。

ブログリストに追加をさせていただく場合、やっぱりご挨拶した方がいいのよねぇ。
でもこういう場合、どこでご挨拶したらいいの?
などとウロウロしてしまいました。

私も人付き合いがどちらかというと得意ではないので
そういうことも原因なのか、
いつも考えすぎちゃって、どうもこういうことがスッキリといきません。
ゴメンナサイ。

ブログを拝見していたら、性格の一部も似ているかしら…、とも思いました。
(お気を悪くなさらないでくださいね。)

ところでコメントにいただいた通り、読書傾向、似ていますよね、たぶん。
最近UPされたものを拝見していると、すでに読んだものや、これから読んで見たいと思うものが多いです。
この「漢方小説」もすごーく面白そう!
初めて聞く本の題名なので、今度本屋で中をチェックしてみたいな、と思いました。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: ゆら | 2005.02.04 14:15

ゆらさん、コメントありがとうございます。
こちらこそ、リンクしていただき嬉しい限りですよ。
どうか気になさらないでください。それに私自身も自分と似たタイプの方かしら…と思っていたところです。

そして、この「漢方小説」ですが、なかなか面白いですよ。アマゾンでは、かなり厳しい意見も飛び交っていますが、私は好みでした。南伸坊さんの表紙も本の佇まいもなかなかよくて、1ページ読んで即買おうと決めたほどでした。とても読みやすい本です。そこが物足りないところでもあるのですが…。

機会があれば、読んでみてくださいませ。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.02.04 15:16

図書館に予約していたので読むのが遅くなってしまったんですー。
読んでよかったです。
楽しい作品でしたね。
TBさせて頂きました。
なんだか追いつけ追い越せと読書をしている気分で楽しくなっています[笑]。
すみません、勝手な思い込みで。

投稿: 桜井 | 2005.05.10 21:56

桜井さん、コメント&トラックバックありがとうございます♪
“追いつけ追い越せと読書”、まさにそんな感じですネ。私もとっても楽しいですよ。桜井さんのブログにお邪魔してから、更新がおもしろくなったような気がしています。
先月から、ようやく図書館通いが始まったのですが、気になっていたいろんな作家さんの作品が読めるのがとっても嬉しいです。桜井さんの記事を参考に読書に励みたいと思っています。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.05.11 13:46

ましろさん、昨日はトラックバックを頂きありがとうございました!
「漢方小説」は小説のストーリーよりも、扱っている題材のほうにすごく興味がわいてしまって、さっそく図書館で漢方や東洋医学の本を探して読んできたりして、ミーハーぶりを発揮してしまいました。

上のほうでましろさんが「(東洋医学の)歴史は難しい&解釈はうさんくさい感が少々…」と書いておられましたが、本当にそのとおりで笑ってしまいました。
そのこじつけ具合やうさんくささも東洋らしいというか、漢方の効き目同様に全体的に東洋医学はゆったりとしているものなんですね。
昔からある「思想」と共に医療が発展してきたという経緯が面白いなあ思いました。

こちらからもトラックバック送らせてください。

投稿: トージ | 2005.07.06 17:56

トージさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
わーっ!!同じ本を読んだのだーっ!!!と、嬉しくなっている私です。
注目した部分が同じだったりするのも、ウキウキしてしまいました。
私もミーハーになりがちですが、トージさんも(笑)興味深いテーマだけに、いろいろ知りたくなりますよね。
それにしても、「(東洋医学の)歴史は難しい&解釈はうさんくさい感が少々…」とは。何ということを書いてしまったのでしょう(笑)恥ずかしいです。大学時代、科学思想史という授業で、ちょっとだけかじっただけの人間が…
そのとおりでよかったです。ほっとしました。

投稿: ましろ(トージさんへ) | 2005.07.06 19:42

ましろさん、こんにちは!
先日はTBとコメントありがとうございました。
バタバタしてて、すっかりお返事が遅くなってしまってごめんなさい。
ほんと、楽しい作品でしたね!
南伸坊さんのイラストは以前から大好きなので、この装幀の素敵さも相まって、ほんとハマっちゃいました。この作品にぴったりですよね。図書館に予約してて、ようやく借りられたんですけど、自分でも欲しいなーと思ってしまう1冊です♪

投稿: 四季 | 2005.08.22 15:05

四季さん、コメント&トラックバックありがとうございます。
返事がいただけて、とっても嬉しいです!
どうか気になさらないでくださいませ。

南伸坊さんのイラストいいですよね。
この本がきっかけで、南さんの本も好きになっちゃいました。
中島たい子さんの作品は、これしか知らないので、もっと読みたい気持ちでいっぱいです!

投稿: ましろ(四季さんへ) | 2005.08.22 21:37

ましろさん、こんにちは。Sachiです。
TB&コメントありがとうございました!(*^▽^*)

ましろさんもこの本読まれていたんですねぇ!
早速こちからもTBさせていただきました♪

そうそう、保険証のカバーに書かれている文句を
「とにかくやたら医療費使うな」と解釈するところ、
おもしろいですよねー!
わたしもここ笑ってしまいました。

南伸坊さんの表紙も、シンプルでかわいくて、大好きです。

二作目の『そろそろくる』、もう出てますね。
急いで図書館に予約しなくちゃです。

投稿: Sachi | 2006.03.07 15:11

Sachiさん、コメント&TBありがとうございます!
とっても嬉しいです。保険証のくだり、Sachiさんも笑いましたか。
ますます嬉しくなっております。

二作目のタイトル、『そろそろくる』だったんですね!
図書の予約って、実はまだ一度もしたことないんです…どうしよう…緊張する(笑)
うまい具合にタイミングが合えばよいな。ほんのりと運命的に。
都合のいいヤツですね、私。

投稿: ましろ(Sachiさんへ) | 2006.03.07 22:17

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