« 僕は模造人間 | トップページ | コッコロから »

2005.02.04

ドンナ・アンナ

 4つの短編からなる島田雅彦著『ドンナ・アンナ』。表題作は、女性版ドンファンのようなオペラ歌手であるアンナとその前に突然現れたアンナのファンを称する王子(ハッピィ・プリンス)という若者の物語である。ファンと称する人とは距離を置いて接すること、ファンは常に三人称で扱うこと。けっして「あなた」として付き合わないこと。人といさかいを起こしたくなければ、その人を知ろうとしないこと。それらをこれまで貫いてきたアンナだったが、ハッピィ・プリンスと出会って何年かぶりに再会したような錯覚にとらわれ、何となく懐かしい気分を味わう。

 ソプラノ歌手を志した頃のアンナは、50にして恋多き乙女を気取る声楽教師に言われた。歌手は自分の体をいろいろなものに取り換えなければならない。あなたは育ちのいいお嬢さんだが、時には酒場の女、時には娼婦にならなければならない。あなたは伯爵夫人であり、人殺しの情婦。女になってはいけない。女たちになりなさい。そのためには恋を多くすることだと。たくさんの男を知れば知るほど、歌声には幅や深みがつく。マリア・カラスの声は男たちが作ったといっても過言ではないと。そしてアンナは声楽教師の教えを忠実に実行して、自分の体の中に他人を住まわせようと努力していた。

 アンナはコンサートやオペラの舞台に立った後は熱演の疲れがなかなか抜けない。劇中の架空の女に生気を吹き込もうと、隅々まで神経を配り、体力の殆どをつぎ込む。一人で一度に7人もの架空の女に変身した今回のコンサートでは、意識を失ったローレライや死神のようになってしまっていた。アンナという架空ではないヒロインをうまく演ずることができるまでには時間が必要だった。ちょうど疲れがとれた頃、ハッピィ・プリンスから電話がくる。それを機に、アンナは彼を招き入れて、家政夫まがいの仕事をさせるようになってゆく。

 ハッピィ・プリンスは夕食を作る。
 ハッピィ・プリンスは涙を流す。
 ハッピィ・プリンスは毎夜強姦される。
 ハッピィ・プリンスは愛される。
 ハッピィ・プリンスはアンナと散歩をする。

 ハッピィ・プリンスは、真面目な学生だった。分子生物学を学び、分子レベルでものを見て、人間をバカにしていた。けれど、論理のパズルに飽きた彼は、結論の出ないメヴウスの輪に背を向けた。学者以外の人間の型を探し歩いた。出稼ぎ労働者、おカマ、俳優、禅の坊さん、暴走族…そして、恋愛。15の教え子と関係を持ってみたりもした。ある時期に誰もが遭遇する「自分が自分でわからない」ような状態であったのだろう。

 アンナの前から突然姿を消すハッピィ・プリンス。彼女は、生身の肉体を持ったハッピィ・プリンスは本当に存在したのか疑問を持つ。自分の頭の中のイメージに自分を合わせようとしていたのではないのかと。そのイメージが薄れていくということは、彼の肉体が消滅してゆくということではないのか…。そして、ハッピィ・プリンスのことを思い出そうとする。男でいることが恥ずかしくなったという口癖、女装をアンナに見られて何が何だかわからないといった時、ポルカ・ミゼリヤ(こんちくしょう)と言って駆け出した後ろ姿…を。

 オペラ的な官能に染まったストーリー。モーツアルトの歌曲を聴きながら、ワインでも飲みつつ読むべきだったかもしれない。いろんなことに消極的な乙女の私の場合は、1曲目はフィガロの結婚から「恋とはどんなものかしら」あたりを選曲して。

4101187029ドンナ・アンナ
島田 雅彦
新潮社 1990-10

by G-Tools

もしもお気に召しましたら人気blogランキングへ…
にほんブログ村 本ブログ←お気に入りブログが見つかります!

|

« 僕は模造人間 | トップページ | コッコロから »

28 島田雅彦の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

きーたよw(ノ´∀`*)

えとね、ウチ 本が読めないんだ。
なんつーの 文字とか文章をちゃんと認識できないんだ。小説みたいな長いのはほんと読めない。
知能検査で お墨付き;;w
だから 漫画ばっかり読むんやけどね。

Tさんはね 島田雅彦信者で よく私に本を買ってくれたンよ。島田さんの。
「彼岸先生」とか 「君が壊れてしまう前」にとか。で、以外や以外、すんなり読めてしまったのよw んで、ほかにも 島田さんの読もうっておもったとき ドンファンの映画見た後でね、
ちょうどドンナ・アンナがあったのw

うちは ドンナ・アンナになりたいって
思ったりしたなぁ。

なんしか 島田さん共通項がみつかってよかったww(´▽`*)アハハ

ほんと ましろりんの読書熱には感服です。
尊敬!
らもさんも読むんだけど、こわくなるんだ。
未だメンタル系の本は さわれない(;´∀`)
やっぱまだまだ修行がたりねぇです。

思ったのは
やっぱましろりんは まっしろだね☆良い意味

あとニャンコだいすきですぜ おいらも(・∀・)w
にゃんこ 自慢でもやろうかー(´∀`*)ウフフw

なんか 長々かきすぎたな(;´∀`)
うん。

また除きにくるね☆つかブックマー-クw

つくづく うちの日記のレベルの低さに
あちゃーって感じですww

(・∀・)/~~アディユー☆

投稿: まろえ。(´∀`*)ウフフ | 2005.02.16 00:57

まろえさんー!!!コメントありがとう★
島田さん、好きなのですね…ほうぅ、嬉しい!
文庫化されてるのは全部読んでいるのだけど、
読むたびに感想が変わるのです。

一時期、本が読めない頃があったのです。
心にゆとりがないと難しいよね。
ニャンコ自慢でも今度しましょうか?

ドンナ・アンナはオペラに興味のなかった
私の世界を広げてくれた小説デシター☆
フィガロの結婚はかなーり好きです。
歌詞はわからないのだけれど…くくくっ。

それから、まろえさんのブログは読んでいて
おもしろいですよ。私は好きです!

投稿: ましろ(まろえさんへ) | 2005.02.16 23:50

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/2808429

この記事へのトラックバック一覧です: ドンナ・アンナ:

« 僕は模造人間 | トップページ | コッコロから »