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2005.02.18

白河夜船

 淋しさに支えられている恋愛を描いた吉本ばなな著『白河夜船』。“いつから私はひとりでいる時、こんなに眠れるようになったのだろう”そんな冒頭から始まる。夜の果てである孤独の闇で、ひっそりとしていることの、じんとしびれるような心地から立ち上がれないのだ。惹かれ合う2人の関係は複雑で様々な事情があるものの、これから先をどうしたいかというようなはっきりした気持ちが、お互いなかった。彼の妻は植物状態。夫婦はこのままずっと、静かに立ち止まり、人の生死を話し合い、支え合い、主人公は無言で愛人のように日々を送り、眠り続けるのであった。

 疲れれば疲れるほどに彼は、現実から遠いところへ主人公を置く。主人公は彼といると、ただでさえ無性に淋しかった。いつも何だか悲しくて、青い夜の底にどこまでも沈んでゆきながら、遠く光る月を懐かしむような、爪の先までただ青く染まるような思いがつきまとった。それに加えて、友人であるかつての同居人の死。よく眠る主人公とは対照的で、「一晩中、眠るわけにはいかない」と以前に語っていた。彼女はお金を取って、添い寝をするという仕事をしていたのであった。となりの人が目を覚ました時、淋しくさせたくないという。彼女の元に集まる人々は、ものすごくデリケートな形で傷ついて、疲れ果てている人ばかり。けれど、彼女は自分が疲れていることすらわからないくらいに…

 主人公は、亡くなった友人との思い出の公園に来ていた。自分の意志ではもうどうすることもできないところに来てしまったようなこの気持ち…。それでも主人公は眠くて眠くて、何も考えることができなかった。すると、その公園で「短期でかまわないからアルバイトを見つけなさい」と助言される。偶然にも、友人から1週間だけのコンパニオンをやることになり、眠気をこらえて一歩を踏み出す。

 何をしていても眠く、つらくて仕方がない主人公であったが、何か、背筋のようなもの、いつでも次のことをはじめられるということ、つまり希望や期待みたいなことを、いつの間にか主人公も主人公の亡くなった友人も気づかないまま投げてしまっていたのだと知る。けれど、ずっと生きてゆくことに耐えてゆくには友人は弱すぎたのだった。

 自分の中にある闇と向き合ったら、深いところでぼろぼろに傷ついて疲れ果ててしまったら、ふいにわからない強さが立ち上がる。大好きな人と一緒にいられること、何もかもが恐ろしいくらいに澄んで美しく見える。その完璧過ぎる状況に涙をこらえる主人公。ほんのささやかな幸せが、主人公を優しく包んでいるようなお話であった。

4101359172白河夜船 (新潮文庫)
吉本 ばなな
新潮社 2002-09

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4041800072白河夜船 (角川文庫)
吉本 ばなな
角川書店 1998-04

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コメント

こんにちは。ましろさん。

『白河夜船』の頃のばななさんて好きでした。
『キッチン』からずーっと立て続けに読んでました。
短編集の『とかげ』とかも好きです。

でもこの頃のは今ひとつピンとこなくって…。
ばななさんが変わったのか、私が変わったのか…。

投稿: ゆら | 2005.02.20 10:58

 僕もゆらさんと同じような感じています。最近の吉本ばななの作品はピンとこない。年取ればそれだけ成熟してくる作家さんもいれば、若い時のがよかったって人もいますよね。
 ところで、大学時代、この人のお父さんの本を読んでたら、友人からリアル・マッド扱いされました(笑)。晩年のお父さんの評論はどうでしょう?

投稿: るる | 2005.02.20 12:13

ゆらさん、コメントありがとうございます。
私も初期の頃の作品が好きです。
最近のものは冒頭を読んだだけで、
「何か違う…」という気持ちになります。
たぶん、ばななさんの方が変わったのでは?
と私は思います。
王国シリーズは全く受け付けませんでした。
ファンの方が聞いたら怒るかもしれませんが…
「トップランナー」出演時の語り口を思うと、
ものすごく自分の作品に自信を持ってる様子で。
うーん……ですね。

投稿: ましろ(ゆらさんへ) | 2005.02.20 21:34

るるさん、コメントありがとうございます。
ばななさんの場合は、若かった方が瑞々しくて
繊細で読み手を惹きつけるものがあったような
気がします。
ばななさんのお父さんの晩年の評論は読んでいないのでわかりませんが、ムツカシイものですね。
私にはかなり頑固なイメージがあるのですが…
リアル・マッド扱い…(笑)
いい歳のとりかたをして、成長できることが
理想ですけど…。自分の思うようにはなかなか…
なんですよね。

投稿: ましろ(るるさんへ) | 2005.02.20 21:49

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