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2005.02.02

かもめのジョナサン

 私の本棚には2冊のリチャード・バック著「かもめのジョナサン」がある。小学生時代に買ったボロボロの色褪せたものと、新品のままブックカバーに大切に守られて最近までページをめくられることなく10年近く経たもの2冊である。本当は大切な人にプレゼントするはずだったけれど、結局渡せないまま時間だけが過ぎてしまったことを思い出した。そのくらいこの本が好きだったのだろうか…と、疑問を感じて再読してみた。

 何よりも飛ぶことが好きなジョナサンは、「お前は1羽のカモメにすぎない。もともとできることには限りがあるのだ。あるがままの自分に満足するべきだ。能力に限りのある哀れなカモメとしての自分に」などと群れの仲間に言われようとおかまいなしだった。ジョナサンには生きる目的があった。無知から抜け出して自分を向上させること、知性と特殊をそなえた高等生物なのだと自認すること。自由になること。いかに飛ぶかを学ぶこと。

 気がつけば、ジョナサンはカモメの群から浮いた存在となっていた。流刑の場所<遙かなる崖>にとどまらずに、さらにずっと遠くまで飛んでいった。残された生涯がひとりでも、ジョナサンの悲しみは孤独ではなかった。輝かしい飛行への道が目前にひろがっているのに、そのことを仲間たちが信じようとしなかったことだった。けれど、ジョナサンは次々と新しいことを学んでいった。精神力をコントロールする方法も習得した。カモメの一生が短いのは、退屈と恐怖と怒りのせいだと発見するに至り、心から3つが消えて実に長くて素晴らしい生涯を送ることになった。

 年月が流れ、ジョナサンと同じような群れの者が現れた。光り輝くカモメたちに連れられ、飛行に関して学ぶ自分と同じ考えを持つカモメたちのもとへ来たのだ。しかし、ジョナサンが知っている何千何万というカモメはいなかった。百万羽に1羽という、めったにいない鳥たちが長い時間・年月を経てここに集まったのだった。ジョナサンは、沢山のことを一度に学ぶことができたから何千年もかからずにここへ辿り着いたのだった。そこの長老が言う「天国とは、場所ではない。時間でもない。天国とはすなわち、完全なる境地のことなのだから」と。完全なるスピードに達しえた時には、天国に届こうとしている。完全なるスピードとは、即そこに在る、ということなのだと。そして、もっと他人を愛することを学ぶように言われる。優しさについて学べば学ぶほど、また愛の意味を知ろうとつとめればつとめるほど、地上へ帰りたいという思いに駆られた。

 ジョナサンは自分と同じように追放されたカモメたちに飛行訓練を始めた。そして語りかける「われわれは自由なんだ。好きなところへ行き、ありのままの自分でいていいのだ。特別な才能に恵まれたカモメではなく、違っているのは本当の自分というものを理解し始めていて、そのための練習を既に始めているということだけだ」と。

 再読したけれど、愛や優しさについて学んだ過程が描かれていないことに気づいた。飛行訓練についてばかりが詳しくクローズアップされて描かれている。群れや仲間はみんな男性を思わせるものであるし、女性との交流はない。母性的なものもない。不思議な物語である。でも、スピード感はいい。カモメの写真もとてもリアルさを醸し出す。鳥のように飛ぶことに憧れた人間が描いた物語は、何年経っても名作であるのだと感じた。

4102159010かもめのジョナサン
五木 寛之
新潮社 1977-05

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コメント

 『カモメのジョナサン』は昔僕も好きでした。「もともと出来ることには限りがあるので、あるがままの自分に満足せよ」と言われても若い頃はなかなか受け入れられないですよね。人はパンのみに生きるにあらずというように、どこかで尊厳ある存在だと信じたい。年を取れば取るほどそうすることが難しくなってきて、妥協を迫られるのだけど、極々一部ではあるけれども何か一つのことの探求に生涯をささげることが出来る人もいる。ジョナサンの気質はある種の職人や芸術家に通じるものがあるのでしょうね。
 ジョナサンには女性的なものが感じられないのは、僕は男性だからよく分かるのですが、女性はどうしても実際的な生活と結びつきやすいからではないかと思います。ジョナサンが人間だったら、何時も気難しい顔をして腕組みをしながらソファーに腰掛けているようなあまりいい夫ではないかもしれないW。もしくはアウトローに近い形でバンドをやってたりするのでは。
 ところで、ヘッセの『荒野の狼』『デミアン』『シッダールタ』なんかもこの作品に近い雰囲気を感じます。
 
 
 

投稿: るる | 2005.02.04 02:59

るるさん、コメントありがとうございます。

るるさんも『かもめのジョナサン』好きでしたか。
どちらかというと男性向きな小説かもしれませんね。確かにジョナサンが夫だったら嫌かもしれませんし…でも、アウトロー的な方は素敵な気がします。例えば、夜回り先生みたいな方とか故・中島らも氏。2人は全く違うタイプですが、世間ではアウトローと言われてますよね。でも、自分の限界に挑むことや自分の力以上のことをやろうと努力する姿勢は人間として見習うべきところだと思っています。

私の中では、努力・忍耐・根性が日々の課題だったりするんです。そして、日々奮闘!完璧主義だと周りからは言われてしまいますが、自分に厳しく理想は高く夢はそこそこで生きております。でも、油断すると他人にも厳しくなってしまう…許すこと、もっと優しい心を持つことが出来たら、理想とする女性になれるのですが…って、やっぱり私は完璧主義ですね。反省です。

投稿: ましろ | 2005.02.04 13:52

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