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2005.01.09

心理療法個人授業

 先生として日本のユング派心理学の第一人者である河合隼雄氏を招き、生徒として南伸坊氏がレポートを書くというスタイルの「心理療法個人授業」。最近の流行であるカウンセリング、心理療法、臨床心理学などについてわかりやすく丁寧に学べる本となっている。流行の波に乗って臨床心理士になるべく大学時代に心理学を学んだ私だが、心理療法の授業には挫折した過去がある。教える人が違うだけで内容がこれほどまでに違うものなのかと、考え深くこの本を読んだ。

 私の通っていた大学は1年次からゼミがあり、ユング派とフロイト派とどちらとも言い難い派に分かれていた。大学に入り立ての身分で自分は何派かなどとは決められず、私はどちらとも言い難い派のゼミに属していた。というか、そこしか合格しなかったのだけれど…。人気のある臨床心理学系のゼミは、10名前後の定員に対して軽く100名以上の希望者が殺到していた。試験はレポートと面接で、4年次以外は毎年行われる。3年次と4年次は同じゼミに所属することが決まっているので、3年次のゼミ選びはかなり慎重さが必要であった。ずっと同じ学年を指導している先生は「昨年度教えた生徒を取る予定ですから、あなたの気が済むのなら面接にいらっしゃい」などと言う始末。何派なのか、以前所属していたゼミはどこかを重視する先生の多さといったら…。自分の教え子がかわいいし、親しい先生の教え子を自分のゼミに入れたいというのが本音なのだろうと今では思う。結局、私は3年間同じ先生のゼミに所属し、青年心理学や家族臨床学を中心に好きなことを気ままに勉強した。

 さて、この本についてだが、私の知っている「心理療法」の授業とは全く違っていた。専門書と一般向けの本が違うように、この本は心理学に興味のある全ての人向けであるように思われる。河合先生は、ユング派でありながらフロイトのことも歴史の流れをふまえて話してくださり、どんな流れが心理療法をつくりあげていったのかをわかりやすく説明している。ヨーロッパに始まった医学からの流れ、アメリカに始まった教育からの流れの2つである。また、最近の考え方についてもしっかりと触れられている。“心の病は、脳内物質のせいだ”説である。「精神分析だの心理療法だので、心の病は治らない。適正な脳内物質こそが、病気を治す」というものである。しかし、もとをたどれば病気になるものをつくったのは、人間関係でもあることは事実。両方のいいところをとって、薬で治るものは薬で、それでも治らないなら心理療法で治せばよいのだと先生はおっしゃる。ちなみに私の担当医は、薬物治療のみであり、脳波検査にてどの脳内物質が過剰に分泌されているかを明確にし、病名を正式に決めたようである。

 また、興味深かったのは「心理療法と恋愛」について書かれているところであった。先生曰く、クライアントとの間に恋愛感情が起こることは、ものすごく多いそうであるのだ。特に男性のセラピストと女性の患者に起こりやすいとか。患者からしたら、自分のことをこんなに思ってくれて、こんなにわかってくれるなんて、恋人と一緒…と思い込んでしまうのが普通。そして、男性の治療者も自分が好かれていると、思いたがる傾向にあるようだと。だんだん治療者が経験を重ねていくうちに恋愛性の転移は起こらなくなるという。けれど、臨床心理学の中核にあるのは「関係性」である。だからこのようなことが起きるのは、仕方がないのだと先生はおっしゃる。この言葉に、ほうほうと思いを巡らせてしまった私であった。

4101410356心理療法個人授業 (新潮文庫)
河合 隼雄
新潮社 2004-08

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73 心理学・精神医学関連の本」カテゴリの記事

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コメント

 春希さんのところに出没しているるるです。ここに書き込みさせてもらうのは始めてなのだけど、宜しくお願いします。
 実は僕も心理学については物凄く興味をもっています。特にユング派の河合隼雄先生の著書はよく読みます。
 前にましろさんは村上春樹の本はよく分からないというようなことを書かれてましたが、僕は村上春樹の本はユング心理学との関連で読めばよく理解できるような気がしています。
 村上春樹自身も以前に『文学界』だったかなんだかで、自分の作品を一番よく読み解いてくれるのは河合隼雄先生だと述べていたことがあります。
 作品を理屈でウンヌンするという作業は、実につまらないことかも知れないけれど、もしよかったら、そのような観点から眺められてみるのいいのではないかと僕は思います。余計なお世話だったら御免ね。

投稿: るる | 2005.01.10 22:08

るるさん、コメントありがとうございます。
とっても考え深いお言葉、嬉しかったですよ。

実は、フロイト派の故・小此木啓吾氏の本は何冊も読んでいましたが、ユング派の河合隼雄氏の本は3冊目くらいなのですよ…村上春樹氏と同様に苦手でして。ずっと前から、語り口が似ていると感じておりましたが、親しく対談している(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』など)くらいですから当然ですよね。大学時代も河合氏の著書は苦手で…

小此木氏のいた大学でしたから、もしかしたら私はフロイト派よりなのかもしれません。授業もフロイト派の方が成績もよく、興味深かったです。何でも性的なものに結びつける節が有名ですが、ユングよりも人間くさくて私は好きです。でも、今となっては勉強不足だった気がしています。だから今から再学習といったところです。認定心理士の資格を取ったからには、勉強せねばと。

投稿: ましろ | 2005.01.11 23:21

 認定心理士ってことは、これから心の専門家として活躍されるわけですよね。羨ましいな~。ましろさんの活躍に期待します!
 色々僕も考えてることもあるのだけれど、ここで全て語り尽くすわけにもいかないので、またの機会にしたいと思います。直接お話出来れば一番いいんですけどね。

投稿: るる | 2005.01.12 22:08

るるさん、残念ながら認定心理士の資格はあまり役には立たないものなのです。学士課程において、心理学の基礎を一通り学んだという証明書のようなものです。その後、指定の大学院を経て、臨床心理士の資格を取得しないとなかなか心の専門家にはなれないのが現実だと思います。しかも、驚くほどお金にならない職業です。採用枠もかなり少ないですし…。いつか役立つ日が来ることを夢見ています。

投稿: ましろ | 2005.01.12 23:36

心理学に興味あるんですが、ほとんど手付かずです。ユング心理学辞典なる本が本棚にあるんですが…。
いちおう精神保健福祉士を目指してるので多少はそのうち勉強すると思います。
認定心理士の資格は別の学科に行けば取得可能でしたが、、断念しました。心理系の資格って苦労して取っても報われないですよね。認定心理士も就職につながらないし、臨床心理士も取得の難しさに比べてあまり役に立たないし。カウンセラーは臨床心理士の資格が無くても法律状問題ないし。カウンセラーに興味があったけどすぐにあきらめてしまいました。

投稿: ユーキ | 2005.01.13 01:44

ユーキさん、コメントありがとうです!
心理学関連の国家資格はまだないんですよね…
私は心理学と精神保健関連の授業を取っていたのですが、両方勉強できてよかったと思っています。両方の資格を取ろうと思っていたくらいですから…。あと3科目で受験資格が得られたのに、断念してしまいました。精神保健の知識も心理学の臨床家を目指すなら、ある程度は勉強しておきたいものです。特にインテークと呼ばれる初回面接についての授業(たぶん精神保健福祉論や精神保健福祉援助技術総論)がおもしろかったですよ。

精神保健福祉士も臨床心理士のように、面接を行ったり、人と密接に関わる仕事だという点では一緒ですよね。

投稿: ましろ | 2005.01.13 03:18

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