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2005.01.28

菊葉荘の幽霊たち

 角田光代著『菊葉荘の幽霊たち』を読んだ。25歳。会社をクビになり、失業保険生活を気ままに送る日々。そんな主人公の恋人(?)である長い付き合いの吉元は、自分の場所を探していた。それは、生きる意味だとか将来のことだとかそういう意味ではなく、あくまで自分としっくり合った部屋を探しているのである。今の部屋は自分には合っていないとか、大家さんから出ていくように言われたとかそんな理由で。不動屋さんはあてにならない。自分の足で駅周辺の雰囲気だとか、建物の外観だとか、そういうのが気に入ればよいのであった。そして、さびれた場所にある風呂ナシの木造アパート「菊葉荘」に半年近くかかってたどり着いたのだった。けれど、空室はない。主人公は、ここの住人を一人追い出せばよいのでは…と計画を企てるのだった。

 「菊葉荘」に住む蓼科(たてしな)に一番始めに目を付けた主人公。彼の後をつけ、彼が大学生であることを知る。何気なく大学へ行ってみると、飲み会に誘われ蓼科の仲のよいグループに溶け込んでしまっていた。ふとしたきっかけから、蓼科と同居を始める主人公。大学生でもないのに大学へ通い、田舎から出てきた自分のキャラがわからないというヤス子とも親しくなる。現在の若者を代表しているかのような雰囲気がしているヤス子。自分は一体何者なのかわからない。こういう人間は多いのではないだろうか。

 蓼科の部屋で暮らすようになった主人公は、「菊葉荘」の住人についてのデータ収集に励む。“ここに住む”と宣言したはずの吉元は、ほとんど何もせずにのんびり構えていた。まるで他人事のように…。それなのになぜ、主人公が彼のためにこんなことをしているのかが奇妙である。6つのアパートのドアの向こうで、一体どんな生活が繰り返されているのか、6つに仕分けされた小さな世界が、どんなふうに回っているのか…そんなことを想像する主人公。

 この小説は、全体に漂うゆらゆらした浮遊感が何ともよい。お隣だろうと、親しく付き合うことのない都会での生活はこれからどうなってしまうのだろうと、ふと怖くなった。気軽でドライな関係もよいけれど、近所に一人くらいは親しい人がいたならば…今の時代はムリなのだろうか。いつの間にか死んでいたとか、消えて(失踪して)しまったとか…。この小説の登場人物の存在が、妙におかしい。不思議なのだ。そもそも吉元と主人公の関係はどうなのだろう?主人公は蓼科との関係についてどう思っているのか…謎なままだ。

4758430403菊葉荘の幽霊たち (ハルキ文庫)
角田 光代
角川春樹事務所 2003-05

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