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2005.01.27

大人はわかってくれない

 「ふつうの女の子」にこそ、カウンセリングが役立つと考える臨床心理士の梶原千遠著『大人はわかってくれない』を読んだ。この本は、周りには霧の中の綱渡りくらいなんてことないように見せていて、本当は部屋に戻ると一人で膝を抱えているような思春期の「ふつうの女の子」たちが、カウンセリングルームで悩みをうち明ける様子と著者のアドバイスの詳しい解説付きの構成になっている。

 たわいもないやりとりの中にこそ、彼女たちが自分を探し当てようとあれこれ模索する迷いや苦悩がちりばめていると著者は言う。たわいもない話にできるだけ関心を示して聞くうちに、たわいもない話はたわいもないだけでは終わらず、その子ども固有の心の世界を見せてくれるようになるのだと。

 カウンセリングの中で「私にも同じような経験があるのです」と、個人的な事柄が重なるような言葉が出てきたのには正直驚いた。カウンセリング技法の1つではあるのだが…これはかなりのベテランでなければ、クライアントの信頼関係はあっという間に崩れてしまうだろう。人の人生というものは2つとして同じものがない。私もそうだから、ということはないし、私もそうだからわかる、ということもない。できることは、察することか、丸ごと受け止めることなどであろう。同じじゃないとわからない、というのでは、結局は誰のこともわからないのである。全く同じ人生を歩んでいる人などいないのだから。

 そのために大切なのは、思いやること。必要なのは想像し、共感する力である。そして、思いやり、想像し、共感していることを相手に伝わるように、言葉にしたり、形にしたりする、それは、非常にムツカシイことである。けれど、たいていの大人は「言わなくちゃわからないでしょう」と、そんなニュアンスで子どもを叱る。著者は「言葉は、気持ちが溢れたときに出ればいい」そんな優しさ溢れる言葉が印象的だった。言葉じゃなくても伝わることもあるのだ。

 特に興味を惹かれたのは、「基本的信頼感」について。特に心の痛さを味わうよりラクだと感じる心。これは、生まれたときから培われるはずの「基本的信頼感」の喪失から起こるという。特にリストカットを繰り返す人に多いようである。人を信じていい、生まれてきてよかった、この世界は安心できるところ、思えるようになることによって獲得される本来ならば、ごくふつうに生活していれば身につくものなのであるが、今を生きる私たちの周りでは、様々なことが混じり合い、それぞれの形になる。こうだからこうなる、という条件はないのである。

 自分を見守ってくれる人がいる。自分が自分であることを、見守ってくれている。自分に何かあったら、駆けつけてくれて助けてくれる。自分は自分でいて、人は人でいても、安心していられるように。人のことを信頼できるように。「基本的信頼感」は生まれてから最初に達するべき発達課題であるが、何かをやろうとしたり、手に入れたりするのに、遅いなんてことはない。ただちょっと時間がかかるだけ。その言葉にほんの少し安らぎを噛みしめた。

4334783082大人はわかってくれない (知恵の森文庫)
梶原 千遠
光文社 2004-09-08

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コメント

 人はそれぞれ自分の物語を紡ぎ出しながら生活しているのかもしれません。誰かは誰かの物語の中で生活しているし、僕は僕の文脈の中で生きています。僕の物語の主人公はもちろん僕自身です。僕の物語に出てくる誰かは僕の物語の中では脇役かもしれない、けれども、誰かの物語の中では当然に、白馬の王子様であったり、悲劇のヒロインであったりするのでしょう。
 それぞれの物語は、別個のものでありながら、それでも交差し合って一つの壮大なドラマを作りあげていく。シェイクスピアとか昔の演劇のプロットを読んでいると、そのような印象を受けます。
 現実社会においてはどうなんでしょうね?『縁はいなものあじなもの』『袖触れ合うも多少の縁』。人は完全に分かり合えるかと考えると僕はわからないですが、あるときひょんなきっかけで物語が交差しあって、八方塞の物語に新しい展開をもたらす、ということもあるのではないでしょうか?僕は『縁』とは信頼のことではないか、なぞと考えております。

投稿: るる | 2005.01.29 00:56

るるさん、コメントありがとうございます。
毎回るるさんのコメントには考えさせられることが多く、自分自身の未熟さを感じてしまいます。

私はこの『大人はわかってくれない』を読んで、「基本的信頼感」が育っていなかったのだと自分自身を振り返りました。信頼関係を築くというのは、とても難しいことですよね。もちろん、一方通行ではダメですし。いつの日か、誰かの生きてきた道と私の生きてきた道が交差することを夢見ながら、自分を磨いて日々成長したいです。そして、人と人との縁を大切にしたいと思っております。

投稿: ましろ | 2005.01.29 02:51

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