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2005.01.01

ピンク・バス

 “普通”の基準は人それぞれだろうけど、考えてみると“普通”なんていう概念はこの世に存在しないよなぁと、角田光代著『ピンク・バス』を読んでぼんやりと思った。辞書によれば、普通とは「広く一般に通ずること。変わっていないこと。あたりまえ。」そんな言葉が並ぶ。けれど、基準はあくまで各々自分の中にあるものだろうと思う。

 この本に登場する人物たちは、それぞれが自分を普通だと思っているように私には思えた。そして、他者を普通ではないのだと…。主人公である妊娠中のサエコは夫の姉・実夏子を。実夏子は、妊娠中のサエコを。そして、弟であるサエコの夫・タクジを普通じゃないと言う。あの子は変なことしか言わないと。タクジは、姉を変わった人だからと軽く流し、サエコの気持ちの揺れを異常な目で見ている。サエコに隠れてコソコソ話す実夏子とタクジの自分が入り込めない関係をサエコは普通じゃないと思う。こうして考えていくと、普通の概念は曖昧過ぎてわからなくなってしまう。

 妊娠したばかりのサエコの生活に突然入り込んできた長い間消息不明だった夫の姉・実夏子。真夜中に化粧したり、冷蔵庫から食べ物をあさったり、ぬいぐるみを何十匹も並べて何時間も同じ格好でぼんやりしたり、とにかく不審な行動を繰り返す。いつまでも居座る姉の行動に、何も言わない夫に苛つくサエコ。「お腹の中にもう一つ小さな脳味噌や目が含まれているなんて気持ち悪い」そんなことをいう実夏子。サエコの心はかき乱されて、思い出したくない過去の出来事にさらに揺れ動くやり場のない気持ち。そんな心の葛藤が丁寧に綴られている。

 学生時代から、いつも友人たちが向こう岸にいるように思ってきたサエコ。自分だけ、いつの間にか間違った角を曲がってしまい、一緒にいたはずの友人たちは遠くの向こう岸で後ろ姿を見ているような…。誰かが仕組んで自分をおとしめようとしているのではないかとすら考え始めてしまう有り様。こんなふうに思うのは妊娠の本にあった「精神的に不安定になり、少しのことでもいらいらしがちです」だからなのか…。それとも…

 幻想なのか、実存しているものなのか、サエコの行く末は…?実夏子もタクジもサエコのそばにいたのかいなかったのか、曖昧でわからない。2人はどこへ行ってしまったのか…?やはり、サエコは向こう岸へ行けずに独り残されてしまったのかもしれない。そんなふうに思ってしまった。タイトルのピンクのバスが象徴しているもの、それは向こう側の世界へのステップの1つだったのかもしれない。

4043726023ピンク・バス (角川文庫)
角田 光代
角川書店 2004-06

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