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2004.12.12

月の砂漠をさばさばと

IMG_0020 ミステリー作家として名を知られる北村薫であるが、「月の砂漠をさばさばと」では平凡過ぎるほど平凡な生活風景を描いている。北村氏の描く「平凡な日常」は、穏やかで暖かく日が差したように読者の心を包んでいるようである。人の想いの連なりとささやかな日常の幸せが、丁寧に繊細に描かれている。

 小学3年生のさきちゃんは、お母さんと2人暮らし。お母さんは、お話を作るのが仕事である。毎晩、さきちゃんは布団の中でいろいろな話を聞かせてもらえる。友達同士のようなさきちゃんとお母さんの関係。「どんなときもあなたの味方」と言ってくれる眼差しに見守られて、毎日がゆっくりと、とても大切に楽しく過ぎてゆく。

 さきちゃんのお母さんの語る物語はどれもおもしろい。特にさそりの話が印象深かった。さそりは、いたちに追いかけられて井戸に落ちてしまう。井戸に落ちて溺れてゆくときに、さそりは思うのだ。「わたしは、こうして誰の役にも立たないまま死んで行くのでしょうか。神様、わたしは今度生まれて来る時は、自分のことだけでなく、人のために苦しむようになりたいのです」と。そして、神様はさそりを天に上げて星にしてくれたというもの。何ともロマンチックで夢のあるお話である。

 それから2人で仲良く図書館に通う様子やさきちゃんの聞き間違いがいい。くすくすくるおもしろさ。凝った間違いである。さきちゃんの連絡帳を通じて男の子と交換日記をしてしまうお母さん。登下校時の旗振りが好きなお母さん。台風の日の午前中のほのぼのとした雰囲気のお母さん。子供の理屈が見えないこと、大人の理屈が見えないことに深々と考え込んでしまうお母さん。いろんなお母さんが、とってもいい。

 やがてさきちゃんが大人になったときには、この本に描かれた出来事の多くは忘れてしまうかもしれない。でも「平凡な日常」の中にある小さな幸せの記憶はいつまでも残ってゆくだろうと思う。私もこの本のことによって、幼い頃に母がしてくれたこと、いつも支えてくれていること、誰よりもお互いを理解し合えていることなどを思い出した。

4101373272月の砂漠をさばさばと (新潮文庫)
北村 薫
新潮社 2002-06

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