« 更級日記 NHKまんがで読む古典 | トップページ | 生贄(いけにえ) »

2004.12.21

妊娠カレンダー

1000045_guren 芥川賞受賞作である小川洋子著『妊娠カレンダー』。タイトルを見ただけでは、母性的なイメージを持つ人がほとんどだろう。けれど、そんなイメージを見事に裏切る冷酷までの視点で描かれてゆく物語。

 早くに両親を亡くした姉妹。結婚して妊娠中の姉と同居する妹の淡々とした姉の妊娠に対する思い、日々流れてゆく日常、食べるという行為への生理的な嫌悪感。それは潔癖なものであり、ある種、拒食に通ずる病的までのものである。食べ物のについての細やかな、そしてこれでもかというくらいの丁寧な描写が、食べ物を寄せ付けたくなくなる。そんな気持ちのになる。食べ物の匂い、存在、食べるという行為の醜さまでも想像をめぐらせてしまう。妊娠中の姉に、農薬漬けのグレープフルーツジャムを淡々と作り続ける妹…殺意ともとれる複雑な心境が描かれている。

 妊娠が果たしておめでたいことなのか、妹は悩む。感覚として素直に喜んで良いのかがわからない。辞書で「おめでとう」という言葉を引いてみるほどの戸惑い様である。つわりで匂いが敏感になってしまった姉がいないときに、淋しくないと言い聞かせて、自分には一人の食事が向いていると思う妹。昼からビール、煙草、のんびりした食事。彼女なりに、満ち足りている。そして、適度に適当なバイトをこなす日々。スーパーで試食品をすすめるバイトである。どんな人にも、平等に適度に微笑み、どんな種類の人たちにも気持ちを乱さない。けれど、スーパーでふと思う。ここにある物が全部人間の食べる物だと思うと、恐ろしくなる。食べ物を捜すためだけに、これだけたくさんの人たちが集まっていることが不気味に思えたのである。

 姉は「今頃、胎児はまぶたの上下が分かれて鼻の穴が貫通している時期…」と生々しく冷静に説明していながらも、自分の体の中にいる生命体におびえる。ここで一人勝手にどんどん膨らんでゆく生物が、自分の赤ん坊だということが、どうしても理解できない。抽象的で漠然としていて、絶対的で逃げられない。女性ならば、いつか経験する気持ちなのだろうか…それとも、この本に出てくる姉妹が特別なのか…

 最近、従姉が出産した。おめでとうと言ってよいのかどうなのか、この妹のように迷ってしまう。裏で抱える問題も知っているだけに。これからが、心配である。

4167557010妊娠カレンダー (文春文庫)
小川 洋子
文藝春秋 1994-02

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« 更級日記 NHKまんがで読む古典 | トップページ | 生贄(いけにえ) »

09 小川洋子の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
従姉さん、無事ご出産なさったのですね。
ご心配ごとがおありのようですが、それでも、新しい命は祝福して差し上げたい。おめでとうございます。

たしかに、赤ちゃんって、母体にとっては「異物」でもありますよね。排除しようとする働きと、育てようとする働きの、両方が機能するのだそうです。精神的にも似たようなものがあるのかもしれません。

『妊娠カレンダー』、読んでみようと思います。妊娠してから読むのはなんとなく辛そうな気配を感じましたので、できればすぐにでも。

うちの妹も、試食販売のバイトやってたんですよ。なんか、重ねちゃいそうでちょっと怖いかも……。

投稿: わさび | 2004.12.22 17:51

わさびさん、コメントありがとうございます。
従姉は、3日前に無事出産。男の子でした。不妊治療の末、体外受精にて生まれた待望の赤ちゃんなので、ほっとしたという感じです。今日、お見舞いに行ってきましたが、すごく大きな子で、柔らかくて可愛かったです。従姉は体調が悪くて大変そうでしたけど…。私は「具合どう?」くらいしか話せなかった気が…正直、何と言ったらよいのかとても迷いました。従姉も産んだばかりで、戸惑いがちな雰囲気で。明るく「おめでとう」という雰囲気ではありませんでした。「この病院は快適でオススメだよーましろもここで産みなぁ」とのことなので、私も産みたくなりましたけど 笑。予定なし、相手なし、なので悲しくもあり寂しくもあり…

「妊娠カレンダー」は、読むと複雑な気持ちにさせてしまうかもしれません。いろんな意味で…。でも、こういう気持ち、何かわかる気もするなぁ…なんてきっと思っちゃいますよ。自分の子どもを持つことについて、考え深くなるかもしれません。

投稿: ましろ | 2004.12.22 19:34

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/2333448

この記事へのトラックバック一覧です: 妊娠カレンダー:

» 妊娠カレンダー / 小川洋子 [書庫  ~30代、女の本棚~]
妊娠した姉に戸惑い、やがて悪意を抱いていく姿を描く表題作以外にも2作品が収録された作品集。 本作は1991年に芥川賞受賞している。 主人公・私は両親を失ってから、精神科に通院している姉と暮らしていた。 やがて姉は結婚し、夫である義兄と3人で暮らしはじめた... [続きを読む]

受信: 2005.10.31 14:30

« 更級日記 NHKまんがで読む古典 | トップページ | 生贄(いけにえ) »