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2004.12.25

カルプス・アルピス

 若くして亡くなった画家・田仲容子さんの絵からイメージした物語が紡がれている嶽本野ばら著「カルプス・アルピス」。6つの章からなる物語は繊細で美しい。

 友人に頼まれて泳げないのにプールの監視員を代行することになる優柔不断な「僕」は、リハビリのために泳ぎに来る女性と出逢う。記憶をなくした彼女は、もう決して戻ってこない喪失したもののために、取り戻せるものは取り戻したいと語る。

 「僕」の友人は叔父の突然の事故死によって、死についての意味を考える。そして気づく。そこには意味がないことを。死はある意味、平等に事故なのだから。でも意味がない死に遺された者たちは納得できない。そう語る友人の話に、記憶を失い、父親の死へのショックと、その死が自分が原因であることを知ってしまった2つの動揺を抱えたままの彼女を思う。彼女は過去の自分の日記から事実を知り、ひどくショックを受けていた。

 そんなとき、彼女が自殺未遂したという連絡が彼女の妹から来る。奇跡的に命を取り留めた彼女は、「私はこの世界に必要のない存在なのに」とつぶやく。「僕には貴方が必要なのです…」と彼女に丁寧に誠実に正直に暖かな告白をする。こんなにも自分を必要としてくれる人がいることに彼女はきっと感動したことだろう。けれど、幸か不幸か彼女は自殺未遂後、記憶が戻っていた。そして、彼女は自分の罪深さや人を利用したことを悔いて倒れ込んだ。それと同時に「僕」はパニックに陥り、目覚めたときには「僕」の方が記憶を失っていた。

 記憶を一時的に失った「僕」に優しくしてくれる彼女と友人。このまま思い出さなければよいのに…と思ってしまう揺れる彼女の気持ち。よく通っていたというプールに通ってみたり…

 ある日、「僕」は夢の中で「彼女は今、魂を喪失している」という声を聞き、記憶を取り戻すのだった。そして、彼女と再びプールで彼女と会う約束をするのだが、待てど彼女は姿を見せない。自宅へ連絡を取ると、彼女の妹が「姉は今日、貴方と会うといって午前中に家を出たんです」と。彼女はこの日、自主的に全ての人の前から姿を消したのだった。

 肉体が滅んでも、命が絶たれても、生まれた魂は永遠にこの世界を生きていく。一番重要で大切に扱わなければならないのは、自分の魂であり、愛する者の魂。その言葉が心から離れない。そして、不器用な「僕」がいとおしい。「僕」の抱える秘密、彼女の抱える闇、暖かな田仲容子さんの絵にぴったりの物語である。

4093861269カルプス・アルピス
嶽本 野ばら
小学館 2003-10

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