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2004.11.06

余白の愛

 以前、何かのインタビューで、小川洋子は影響を受けた作家の1人として、村上春樹を挙げていた。一番好きな村上春樹の長編小説は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」だそうだ。そのせいなのか、小川洋子の小説には、至るところにどこか村上春樹っぽいの影が見られる。特に初期の作品の中での会話の運びや比喩が似ている気がする。

 「世界の終り~」と同じく、現実と記憶と幻想がボーダレスに交錯する世界を描いた『余白の愛』。それは、死を思わせる世界。静寂に包まれている。雪が降り積もり、雨が静かに降り、風が吹きすぎ、ヴァイオリンが響き、ジャスミンが香っている。病院も、ホテルも、博物館も、1人だけの部屋も、いつもしんと静まりかえっている。生の中にも死があり、死の中に生がある。「余白の愛」では、生と死が同等なものとして描かれている。

 難聴の「私」が参加する座談会で出会う速記者のYの指の動き、13歳で姿を消した少年のヴァイオリンを弾く指、髪を切りそろえてくれた夫の指。それらは、「私」の安らぎの象徴だろうか…。「私」の耳の異常は3回起こる。夫との別居、離婚の要求、再婚の知らせ、にそれぞれつながっているのだった。この耳と指という2つの器官の組み合わせが絶妙である。外界から閉ざされた「故障した耳」が、外界から開かれた「よく動く指」を求めていく…女性である「私」の耳が、男性である速記者Yの指を。

 現実に存在する関係、幻想の中の関係、記憶の中の関係、この3つが「余白の愛」にはある。1~18章まで読み終えてもなお、幻想は果てしなく続き広がってゆく。小川洋子の独特の世界は、よい意味で初期作品から変わっていない。

4122043794余白の愛 (中公文庫)
小川 洋子
中央公論新社 2004-06

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