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2004.11.11

これからはあるくのだ

20051026_003 角田光代さんの本のタイトルが好きだ。自らの身に起こった出来事をユニークに綴ったエッセイ本『これからはあるくのだ』(文春文庫)もタイトルがとても印象的である。31のエッセイは、どれも著者の素直な人柄とボケッぷりの良さを醸し出している。自転車に寄りかかっていたら真後ろで老人がばったり倒れて「この自転車が向こうから猛スピードで走ってきてぶつかった」と言われたり、着物をだまされて買わされたり、5年も住んでいる町で道に迷ったり…それでも思わず笑ってしまう。著者の呑気さは凄いものがある。中でも、「記憶の食卓」と「名の世界」が私は好きである。

 「記憶の食卓」では、著者を含む同世代の友人間に20代中盤から記憶の変化が始まったというお話。ものをうまく覚えられないだけでなく、記憶するときに、個人の先入観やら希望的観測やら夢までも取り込んでそのまま記憶し、いったん記憶してしまうと、それを誰に何を言われようと訂正しなくなってきているのだと言う。あと半世紀くらい生きてしまいそうな可能性があるから、その半世紀の間に自分の思う自分の理想像のように人々の記憶の中に残りたいと著者は考え、料理を振る舞うのである。「あの人はこうだった」という話のあとに料理がおいしかったとかまずかったとか、せめてそんなことを言われたいと企んでいるのである。

 「名の世界」では、スペイン旅行での出来事が綴られている。ふと、スペイン人に名前を訊かれ、ローマ字と漢字で紙ナプキンに名前を書く。説明を求められ、スペイン語が片言話せる友人は、「光代」を「光の世界」、「洋子」を「海」だと答えた。海という言葉も光という言葉も同様に美しい。1つの名に1つの世界があったことを著者は気づくのである。そして、日本語の美しさを感じる。親が子供にくれる多くのものの中で、名前がもっとも素晴らしい贈り物なのでは…そう著者は思うのである。

 私のHNの「ましろ」は大好きな絵本「子うさぎましろのお話」から拝借したもの。それに加え、「真っ白な色が好きだから」という安易なもの。英語で説明するなら「Deep white」か?本名は英単語1つで説明できるようなありふれたゴロゴロ転がっている名前である。いまだに自分の名前は好きになれない。両親には申し訳ないけれど…

4167672014これからはあるくのだ (文春文庫)
角田 光代
文藝春秋 2003-09

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コメント

はじめまして。TBさせていただきました。勝手に送りっぱなしにしちゃって、大っ変失礼しました。
素敵なエッセイですよね。「名の世界」は素敵なエピソードですよね。私も改めて自分の名前の持つ素敵な世界と、名前を付けてくれた親の想いを感じました。

投稿: イオリ | 2005.01.16 07:51

イオリさん、コメント&TBどうもありがとうございます。私も素敵なエッセイだと思っております。角田さんの人柄も作品も大好きです。先日、直木賞を受賞されて、自分のことのように嬉しく思ってしまいました。好きな作家さんが認められると、「自分の読書の趣味ってなかなかよいのね…」なんて、思うこともしばしばだったり…

投稿: ましろ(イオリさんへ) | 2005.01.16 23:58

お久しぶりです。
私もようやく?本書を読みましたのでTBさせていただきますー!
「記憶の食卓」も心に残ったのですが、せつなかった1つを選んで書いてみました。

投稿: 桜井 | 2005.09.05 19:39

桜井さん、お久しぶりです!
コメントありがとうございます。
早速読ませていただきますね。とっても楽しみです。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.09.06 08:11

ましろさん。こんばんは。
TBさせていただきました。
タイトルの「これからはあるくのだ」いいですよね。信号待ちしてるときに、自転車に乗ってる人をボーっと見ながらこの話を思い出して、ニヤニヤしてしまいました。

投稿: なな | 2005.10.04 21:29

ななさん、こんばんはです!
コメント&TBありがとうございます。毎回嬉しく思っております。
私もときどき思い出してニヤニヤしてしまうことが。
読んだばかりときもわらってしまったけれど、じわじわきますね。なかなか。

投稿: ましろ(ななさんへ) | 2005.10.04 22:02

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