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2004.11.05

刺繍する少女

 昨日、一昨日に続いて今日も、小川洋子作品について言葉を紡ぐ。小川洋子の小説には「死」について、多く取り上げられている。中でも、短篇で直接的に「死」を描いているのは、『刺繍する少女』ではないだろうか。長編でも喪失感や死について多く触れられているのだが…この「刺繍する少女」の10編の物語のどれもが端整な、落ち着いた、冷酷なまでも大胆な文章で綴られている。死、狂気、奇異、恐怖が優しく、丁寧に、静かに語られているのだ。

 表題作「刺繍する少女」では、死が間近の母親の付き添いの僕が、ホスピスにて20年以上前に別荘で出会った少女と再会する。した?もしくは全てが夢?彼女は20年経っても、喘息持ちで結婚もせずに変わらない佇まいでボランティア室にて刺繍をしていた。

 「刺繍ってそんなにおもしろいかい?」
「おもしろいかどうかは、よく分からない。1人ぼっちになりたい時、これをやるの。自分の指だけを見るの。小さな小さな針の先だけに自分を閉じ込めるの。そうしたら急に、自由になれた気分がするわ」

 12歳の夏の思い出。少女は小さな虫を、1匹1匹針で突き殺しているかのように、秘密めいた残酷な遊びのように刺繍をしていた。喘息持ちで、白くて細かったけれど、どことなく柔らかみがあった。喘息の薬のせいで、髪の色素が薄かった。ワンピースのポケットには、喘息用の噴霧器が入っていた。

 その夏は、多くの死を葬った。別荘の管理人が心臓発作で亡くなり、ゴルフ場の農薬が流れて沢の蟹が全滅し、台所の洗面器の中で小ネズミが溺死した。庭の花水木が枯れた。鶏が1羽、うちの食卓でローストチキンになり、少女の飼っていた猫が感染症で死んだ。その後、別荘は売ってしまったので、少女と会うことはなかった。

 そして20年後、刺繍する彼女と再会し、今度は僕の母親が「死」を迎えようとしていたのだった…成長した彼女と12歳のままの少女が交錯する。彼女と過ごした時間は一体…私は、物語の中にどっぷり沈んでゆく。

4043410042刺繍する少女 (角川文庫)
小川 洋子
角川書店 1999-08

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