« 夜かかる虹 | トップページ | 乾からびた胎児 »

2004.11.29

奇術師の家

 19の頃、都内に住み始めたことをきっかけに、探している本が見つけやすくなった。いつのまにか、本屋に行ってお目当ての本を実際に手に取り、手触り、文章の書き出し、装丁に至るまで確かめてから本を選ぶようになっていた。

 その頃出会った小川洋子著「妖精が舞い降りる夜」の中には、魚住陽子さんの小説に対する著者の熱い思いが綴られていた。小説を手に取り、タイトルを眺め、書き出しの数行を読んだ途端、ここから替わって自分がこの小説を書きたい、と思う小説を書く作家さんであるという。

 それは、魚住陽子さんの「公園」という小説なのだが、私は古本屋でも都会の大きな本屋でも、魚住さんの小説を探し出すことが出来なかった。今では、ネットでちょちょいと検索できるのだが…それに本屋に注文すればよかったのに…でも、調べてみれば在庫切れ。もっと早く魚住作品を読んでおけばよかった。とても悔やまれる。

 私が魚住作品を諦めた頃、古本屋のセールで、この「奇術師の家」を見つけた。私は20歳になっていた。残念ながら「公園」は見つからなかったけれど、魚住さんの小説に触れることが出来て、無性に嬉しくなった。もちろん即買い。そして、魚住さんの小説の世界にぐっと引き込まれた。その後、すぐにその本は文庫化され、私の手元には文庫だけが残った。

 「奇術師の家」は主人公の母がかつて住んでいた、取り壊しの決まっている借家での生活が幻想的に紡がれてゆく。残り少ない余生を生きる母のために引っ越してきたのである。30年ぶりにその家に戻った病床の母は、夢なのか過去に実際にあった出来事なのかわからないことを口にする。心も体も不安定で、夢の中のような話を語り続ける母。家の持ち主である奇術師・鬼頭とは一体どんな人物なのだろう…母との関係はいかなるものであったのだろう…主人公の私は思いをはせる。奇術師という言葉だけで幻想的なイメージが私の中には広がった。超能力者でもなく、マジシャンでもなく、特別な意味合いを感じる奇術者なのである。言葉の選び方も素敵だ。いつか、こんな小説を書いてみたい…と本気で思った。

4022641002奇術師の家
魚住 陽子
朝日新聞社 1996-02

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« 夜かかる虹 | トップページ | 乾からびた胎児 »

06 魚住陽子の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

 こんばんは。私も小川洋子さんのエッセイを通じて、つい最近魚住陽子さんの小説を知りました。『奇術師の家』は妖しくも幻想的な物語。老いゆく母を見つめる娘の視線の中に、いたわりや苛立ち、知らなかった一面を知ってゆく際の戸惑いや畏れ、憧れのようなものがざわざわと入り交じってゆく様子がとてもリアルで、そこから読み手として巻き込まれてしまいました。奇術師、という言葉もあまり聴かないような。あるいはタイトルからもう引き込まれていたのかもしれません。

 こんなにも繊細で鋭い筆致の作家さんの本がたったの4冊しか出ておらず、すべて絶版というのは残念な限りです。『公園』まだお捜しでしょうか?Amazon.co.jpの方で、ユーズド商品(古本)として比較的安価で入手可能のようです(入れ違いに売れてしまっていたらごめんなさい)。

 素敵な書評の数々、また読みに伺いたいです。

投稿: KURIKURI | 2006.05.26 02:21

KURIKURIさん、コメントありがとうございます。
魚住陽子さんの作品を好きな方と出会えるとは…!
なんだかとっても、嬉しい気持ちになりました。
“奇術師”という言葉だけでも、思わずぐぐっと引き込まれますよね。

最近やっと『動く箱』を読みまして、やっぱり『公園』も読まねば。
そう思っているこの頃です。
早速、Amazonで探してみようと思います。
いろいろ教えてくださって、ありがとうございました!

投稿: ましろ(KURIKURI さんへ) | 2006.05.26 06:16

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/2107730

この記事へのトラックバック一覧です: 奇術師の家:

« 夜かかる虹 | トップページ | 乾からびた胎児 »