« シルエット | トップページ | 奇術師の家 »

2004.11.28

夜かかる虹

 今月文庫化された大好きな作家・角田光代さんの『夜かかる虹』。やっぱり期待を裏切らない大好きな作品であると、真っ先に思った。角田さんの書く文章がなぜ好きなのかを訊かれたら、私は迷わずに即答する。「正直だから」と。角田さんの文章はいつだってストレートで、それでいて繊細である。純文学、児童文学、恋愛小説、家族小説、旅行記、エッセイと幅広く手がけている。けれど、決して器用ではないことをどの作品を読んでも感じる。文章が上手い下手の問題を言っているのではない。人柄のことだ。きっと、自分の気持ちに対して素直な人なのだろう。純粋な人なのだろう。よい意味で人間くさい人なのだろう。そんなふうに私は思うのだ。

 「夜かかる虹」には、外見はそっくりでも性格は正反対の姉妹が出てくる。姉フキコと妹リカコ、2人の関係は痛くて切ない。お互いに嫉妬し合ったり、感情を探り合ったり、ぶつかってみたり…人間味溢れる登場人物たちである。一言で言うなら、生き方が下手で不器用な姉妹の物語。角田さんの小説には不器用な人がよく登場するのだが、今回の作品ではその不器用さがもどかしくもあり、自分の中にも同じ感情があったことに気づき照れくさくもあり、はっとさせられ恥ずかしくもあり…だから、登場人物を決して笑うことはできない。知っている感情なのだから。

 この小説を読んで、思い出すエピソードがある。私がまだ母のお腹の中にいたときのことである。母のお腹があまりにも大きかったため、双子ではないかと主治医に言われていたという。だから、両親は女の子の名前を2つ用意していた。けれど、生まれてみれば2000グラムも満たないような未熟児1人だけで、何ヶ月も抱くことが出来なかったほど小さかった。お腹が大きかったのは、羊水が通常より多すぎただけであった。

 その話を聞いてから、私は“もう一人の私”の存在を考えるようになった。もう1人、自分とそっくりな姉もしくは妹がいたのなら…と。一緒に過ごして楽しいことも嬉しいこともたくさんあるだろう。けれど、お互いを意識し過ぎて嫉妬心を抱くであろうことも想像できた。幼い頃の私の性格は、子供らしさのない大人びた子供で、何でも出来る隙のない優等生タイプだったから。誰よりも真面目で努力家で、負けず嫌いだった。だから、もう1人の私と競争し合うだろうと。異性の兄にさえ、嫉妬心を抱いていたくらいだから、相当なモノである。とにかく、私を見て。私を誉めて。私を愛して…そんな気持ちばかりを日々持っていた。けれど、感情表現が苦手な私はそんな強い求める気持ちを口に出すことはできなかった。果たして双子だったら、どんな私になっていただろうか…

 こんなふうに「もし、もう一つの命が誕生していたら…」と、ときどき思いをはせる。この小説を読んでまた考えてしまった。

4062749254夜かかる虹 (講談社文庫)
角田 光代
講談社 2004-11

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« シルエット | トップページ | 奇術師の家 »

13 角田光代の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

ましろさん
初めまして。わざわざいらしてくださって有り難うございました。
実はちょっと手違いがあってBlogPeopleへの登録を新たにやり直しました。
なのでまたお知らせが届いてしまうかも。
ほんと、何度もすみません~。

「シルエット」と「夜かかる虹」ちょうど読みはじめたところです。
角田光代、好きです。
ましろさんとは本当に本の好みが似ていて驚いています。なんだか嬉しい。
また遊びにきますねー。

投稿: ミメイ | 2004.11.29 02:23

ミメイさん、コメントありがとうございます。
久しぶりに魚住陽子さんの本を読み直しました。
ミメイさんの記事を読んで…思いだしちゃったんです

角田光代さんは、とっても大好きな作家さんです。
一番は小川洋子さんなのですが…。
ミメイさんも好きなんですよね~☆
ホント、読書の傾向が似ています。
驚き桃の木サンショの木状態で興奮気味ですよ。
こういう出会いはブログならではですよね!
初めての体験だったので嬉しい気持ちで胸がいっぱいです。

まだBlogPeopleのしくみがよくわからない私です…

投稿: ましろ(ミメイさんへ) | 2004.11.30 00:30

はじめまして。
この姉妹は本当に不器用に生きているような気がします。
自分の嫌な部分が似ているからこそ、妹が疎ましかったんでしょうね。
子どもの頃の記憶のシーンなんて怖かったです。
小川洋子さんの妊娠カレンダーを読んだときのような
微妙な怖さがありました。

TBさせてもらいますね。

投稿: みわ | 2005.11.02 23:03

みわさん、コメント&TBありがとうございます!
「妊娠カレンダー」の姉妹、そういえば似ているかも知れませんね。
自分と似た生き物のに対する疎ましさは、
怖いながらに人間らしさを私は感じてしまいます。
いつまでたっても不器用にしか生きられない自分に、少々愛しさを覚えるこの頃…
今後もどうぞ宜しくお願い致します!

投稿: ましろ(みわさんへ) | 2005.11.03 16:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/2095242

この記事へのトラックバック一覧です: 夜かかる虹:

» 夜かかる虹 / 角田光代 [書庫  〜30代、女の本棚〜]
姉妹、ホステスと客など人と人との繋がりを主題とした作品集。 『夜かかる虹』はアルバイトで生計を立てるフキコが主人公。 恋人・修平とのんびりとテレビを見ていたら、画面に自分そっくりの女が映し出される。 間違いなく、妹のリカコだった。 甘ったるい声、視線を意識した笑顔・・・ 昔から疎ましく思っていた妹そのものだった。 そのリカコから「引っ越した」と連絡があってから、フキコの穏やかな生活に... [続きを読む]

受信: 2005.05.01 19:57

» 夜かかる虹 / 角田光代 [活字中毒]
不思議なお話でした。結局彼女はどんな人だったのかしら?と思いたくなるような、そして彼女のことを一番理解していたのは、彼女自身ではなく妹だったのではないかと・・・。 この本には作品が2つ入ってました。 1つめは表題の「夜かかる虹」そして、もう1つは「草の巣... [続きを読む]

受信: 2005.11.02 22:58

« シルエット | トップページ | 奇術師の家 »