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2004.10.08

やさしい訴え

 しとしと降る雨の日。こんな日はチェンバロの調べが心地よい。特に、ジャン=フィリップ・ラモーの「やさしい訴え」やバッハの「フランス組曲5番」が私は好きだ。チェンバロの音色が心地よくなったのは、小川洋子著『やさしい訴え』という小説を読んでからである。チェンバロという楽器が、とても繊細であることや木の温かなぬくもりを持っていることを知った。美しい音色だと、素直に思えるようになった。

 この小説は、山奥の別荘へ家出してきたカリグラフィーの仕事をする女性と、そこで出会う心に傷を抱えるチェンバロ職人の男性と、彼の助手(女性)のチェンバロ奏者との三角関係のお話だ。女性は、チェンバロの演奏をはじめてしっかりと聞いた。それが、ジャン=フィリップ・ラモーの「やさしい訴え」であった。この魅惑的な祈りのようなタイトルに、主人公の女性と同じく私も強く惹かれるものを感じた。そして、チェンバロを愛しむ職人の男性に対しても…。

 チェンバロ職人の男性はかつてピアニストだったが、演奏恐怖症になり挫折した。それは、休養とかリラックスとか気分転換とかで治るレベルではなかった。けれども、人前ではチェンバロを弾くことができない彼は、助手の前でなら演奏することができるのを彼女は知ってしまう。彼とどれほど身体を重ねても、彼女は彼が演奏してくれることを一番望んでいた。それが、彼にとってとても残酷なことだとわかっていても。静かに進んでいく恋心は、とても残酷で孤独に満ちていた。

 「私じゃだめなんだ…」彼女はそう思う。チェンバロが、男性と助手の2人の世界すべてを支えていると。彼女は、帰る場所をなくしてしまう…

 私はこの本を読み終え、ダスタフ・レオンハルトの「フランス・クラヴサン音楽の精華」という中古CDを買った。見つけるのにかなり苦労したが…「やさしい訴え」は1曲目だった。

4167557029やさしい訴え (文春文庫)
小川 洋子
文藝春秋 2004-10

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コメント

やさしい訴え と検索してここにたどりつきました。夜中に一気に読んでしまってから、その余韻から離れられなくて・・・
江國香織さんの小説を読んだ後におそわれる どうしようもない切なさとは別の・・なんというんでしょうか・・ボキャブラリーの貧しい私には巧く言えませんが・・やっぱり切なさなのかなぁ・・それはないとは思いつつ、薫さんから見たお話も読んでみたいなーなんて。ちなみに 今の私のベスト1「神様のボート」に匹敵する 今年のベスト1です。

投稿: ぴのこ | 2004.11.08 22:11

ぴのこさん、コメントありがとうございます!
小川洋子さんの「やさしい訴え」は読まれたのでしょうか?
とても心地よい余韻の残る小説ですよね。
江國香織さんの「神様のボート」についても、
記事を書いているので、宜しければ読んでみてください。

投稿: ましろ | 2004.11.09 10:49

「博士の愛した数式」を読んで贔屓になりました。

「やさしい訴え」は未だ最後まで読んでいないのですが、
タイトルになっているラモーの曲に、ぜひお薦めの一枚があるので…、
書き込みさせていただきました。

数ある名演の中から、ぜひお薦めしたいと思わせる一枚は
武久源造/チェンバロによるアリア集というアルバムです。
このアルバムには3曲目に「恋のなげき」として収録されております。

作中にもレオンハルトの「フランス・クラブサン音楽の精華」
と共に「チェンバロによるアリア集/シフォーチの別れ」も
しっかり登場しています。
…ということは、著者(小川洋子)は武久源造を聴いたことが
あると思われますが、小説の題としては、Les Tendres Plaintesの訳に
「恋の嘆き」より「やさしい訴え」を採ったためにレオンハルトが先に
出てくるのではないかと感じます。

投稿: てつや | 2005.06.12 16:32

てつやさん、コメントありがとうございます。
武久源造さんの名は、初めて聞きました。
音楽のこと、お詳しいのですね。
機会があったら、てつやさんお薦めのCDを探してみようと思います。
実は、6年前に何の予備知識もなく、「やさしい訴え」というタイトルの曲が入っているCDだけを探していたのです。
見つかりにくかったのは、きっと邦題がいくつかあったからなのですね。
それに加えて、“クラヴサン”とは何ぞや?私が探しているのはチェンバロの曲なのに…というくらいでしたから。
こういう情報は、とってもありがたく嬉しいです。
どうもありがとうございました!

投稿: ましろ(てつやさんへ) | 2005.06.12 20:43

じつは音楽のこと、たいして詳しくないんです。

でも、武久源造さんは、日本がいま世界にむかって誇れる
数少ない音楽家の一人だと思います。
また、文章家としても一級で、録音した楽曲についての
解説もほとんど自分で書いています。

バッハの「ゴールドベルク変奏曲」も名演なので、ぜひ
一度聴いてみてください。

本と関係なくて、もうしわけありません。

--
あくまでも個人的にですが、小説としては「博士の愛した…」
の方が、おもしろかったように感じます。

投稿: てつや | 2005.06.14 17:20

てつやさん、再びコメントありがとうございます。
バッハと言えば、グレン・グールド以外の演奏は、あまり好みではないのですが。
そういえば、日本人のバッハはあまり聴いたことがないです。
チェンバロのゴールドベルクも。
聴かなくてはいけませんね。

きっと多くの方が「博士の愛した数式」の方がよいと思うんじゃないでしょうか。
私は、「やさしい訴え」の暗さや閉ざされた関係というのが、好きなんです。それは、小説としてのおもしろさとか完成度とかは関係なく、自分の色としっくりくる…そういう類の好きかなぁと思っています。

投稿: ましろ(てつやさんへ) | 2005.06.14 18:17

こんにちは。いつもお世話になってます♪
チェンバロの音色はいいですよねー。
うちのキーボードでもチェンバロの音は出ますが(笑)
いつか本物のチェンバロを弾いてみたいです。

ところで・・・ましろさんのところには、
いつもTBができないのですが・・・なんでかな?

投稿: ゆうき | 2006.06.13 23:05

ゆうきさん、コメントありがとうございます!
えっ、TBできない状態に!?
教えてくださってありがとうです。スパム対策し過ぎなのかな…
一度クリアにするので、気が向きましたらTBしてくださいませ。
ご迷惑おかけします。

チェンバロわたしも本物は弾いたことがなくて。
いつか!きっと!
わたしもひそやかにバイオリンやってマス。

投稿: ましろ(ゆうきさんへ) | 2006.06.13 23:43

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