« 空飛ぶ馬 | トップページ | 恋愛の国のアリス »

2004.10.31

みんないってしまう

20051010_117 悲しく寂しいタイトルの山本文緒著「みんないってしまう」は12の短編からなる。どの話も何かを失くし、そしてほんの少し救いがある。だけど、やっぱり孤独な人間模様をどれも描いていると言ってよいだろう。自分を救えるのは自分だけなのか…誰にも救ってもらえないのだろうか…そんなことを考えてしまう。山本文緒の描くストーリーは、いつだってそう私に思わせてしまう。

 短編の表題作「みんないってしまう」は、12の短編の中で最も寂しいタイトルなのに、一番笑いのあるお話。60歳になって、一人暮らしとなった女性の話である。思わぬところで突然、昔転校した学校での同級生に出会い、思い出話をする。そして、過去の意外な事実を知ることになるのだ。

 彼女は、60まで順調に生きてきた。平凡に社内恋愛をし、当時の慣習通りの寿退社。すぐに息子が生まれ、郊外の小さな家でずっと暮らした。子供が手から離れると、昔から好きだった編み物を本格的に始めた。そして、生徒をとって教えるようになり、10年20年と過ぎていった。手芸店の本社で、企画とデザインの手伝いをするまでになった。夫は定年を迎え、自分の故郷に移り住む決心をしたが、彼女は自分のやりたいことを正直に伝えた。夫は仕事用に持っていたマンションを譲ってくれた。

 「ひとつ失くすと、ひとつ貰える。そうやってまた毎日は回っていく。幸福も絶望も失っていき、やがて失くしたことすら忘れていく。ただ流されていく。思いもよらない美しい岸辺まで」
いいフレーズである。ほとんどの作品は、その結末を読み手に委ねている。答えは読み手の数だけ用意されていると言ってよいだろう。

 著者は言う「急がなければ、今手の中にある物も、そばにいてくれる親しい人も、明日にはいってしまうような予感がして仕方ない」と。時間は確実に過ぎていく。私に何が起ころうと…そんな当たり前のことを、私はつい忘れてしまいがちだ。失いたくない大切な物を毎日大事にしなくては。大切な人へのありがとうをこめて。

4041970067みんないってしまう (角川文庫)
山本 文緒
角川書店 1999-06

by G-Tools

人気ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログ←宜しければクリックお願い致します。

|

« 空飛ぶ馬 | トップページ | 恋愛の国のアリス »

74 その他の本」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

私も、両手いっぱいのありがとうを此処に置いて行きます。
おやすみ☆彡

投稿: えりこ | 2004.11.01 01:08

えりこさん、コメントありがとう!届いてくれて嬉しいよ。
ものすごく個人的にブログを使ってしまったけれど…

私を支えてくれる全ての人へ「ありがとう」です!

投稿: ましろ(えりこさんへ) | 2004.11.02 19:00

ご無沙汰してます。
久々にTBできる作品がありました!
山本文緒さんはとても好きな作家さんの一人なのです。
私も彼女の作品に出てくるぎりぎりの人たちのように、いつ足元がぐらついてしまうか、何かをしでかしてしまうか、不安になることがあります。
それくらいリアルだと思いませんか?

投稿: 桜井 | 2005.12.14 10:59

桜井さん、コメント&TBありがとうございます!
山本文緒さんの作品は、私もとってもリアルだと思います。そして、大好きです。
たぶん、人間の持っている闇の部分をよく理解し、それをかつて経験したことがあるのでは…なんて思っているんですが。どうなんでしょう。
最近、山本文緒作品を読んでいないので、また再読してみようかなぁと思っております。

投稿: ましろ(桜井さんへ) | 2005.12.14 18:47

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55029/1823933

この記事へのトラックバック一覧です: みんないってしまう:

» みんないってしまう / 山本文緒 [書庫  ~30代、女の本棚~]
信じられるのは自分だけ。 何かが自分から消えていく、どこかへ行ってしまって残るのは自分独り。 そんな物語が12収録されている短編集。 『片恋症候群』の主人公・鹿島は独身女性。 彼女には気になる同僚が居る。 或る日、ただ彼の家が意外と近いと知り軽い気持ちで... [続きを読む]

受信: 2005.12.14 11:03

« 空飛ぶ馬 | トップページ | 恋愛の国のアリス »