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2004.10.21

エンドレス・ワルツ

 稲葉真弓著「エンドレス・ワルツ」は、’70年代が舞台。ジャズ界の異端児、阿部薫。作家であり女優であった、鈴木いづみ。実在した2人の傷つけ合いながらも、お互いに激しく求め合った愛の物語が描かれている。

 カオルはいつも走り続けること、その速度だけが問題だと言い続けていた。けれど、その速度をどう操ったらいいのか教えてくれないまま、いづみの前から永遠にいなくなった。昔の速度がどんなだったか、ふと立ち止まることはあっても、その速度を思い出せない。それとも私は、あまりにも速い速度に慣れ過ぎて、もう普通の速度で歩けなくなっているのだろうか…

 1973年。いづみは、公園で顔色の悪い男と出会う。そして、同じ頃に友人から「あんた好みの男がいる。アルト・サックスで気違いみたいな音を出すヤク中の男…」それは、同一人物だった。出会うべくして出会った2人。時間の感覚が失われてゆく世界へと足を踏み入れたのだった。

 2人が24歳のとき、ふとカオルが言う「結婚しようよ。君が好きなんだ」と。いづみは笑ってうなずいたが、この結婚は恐ろしいことになると既に思っていた。カオルは、毎日のように彼女の後をずっと着いてきて監視し続けた。ライブのある日以外は、1人で外出することもなかった。ステージでのカオルは、凄まじい音を出し、客を殴り、狂っていた。自分でも狂っていると自覚していた。「自分の音が自分だけに鋭く突き刺さってくる。絶対的な孤独が見えた」と言い、泣いた。そして、生まれて初めて、自分の出せない音に対して嫉妬した。彼女なしでは生きられないと言い続けた。けれど、彼は結局自分は1人ぼっちだと思っていた。

 時が過ぎれば過ぎるほど、2人の関係はお互いを傷つけ合うようになる。「僕は君の欲しがる物なら何でも全てあげられる。君が死ねと言えば死ぬ。だから君は僕が死ねと言ったら死ななくちゃならない」その言葉に、いづみは言う「全部あげるわ。私の体のすみずみまで。今夜の私の絶対的な愛は、足の小指」と。そして、小指はあっけないほど軽い音を立てて転がった。

 カオルは大量の薬を飲むようになっていた。そして、いづみも絶えず襲ってくる不安感のために、薬を止められずにいた。カオルの持病、暴力、憎しみ、嫉妬…そんなひどい状況時に、彼女は妊娠して女の子を生む。カオルは、薬ではなくオムレツを食べるようになった。もう殴らないと約束した。けれど、彼はひどい幻聴や幻覚に悩まされており、1人でいるときも2人でいるときも、お互いに1人の世界にいた。

 1974年に離婚。理由は山ほどあったが、本当の理由は何かわからない。しばらくは、今までどおり一緒に暮らしていたが、永遠の別れが来た。

 1978年9月、カオルは死んだ。ブロバリン98錠で。


 1986年2月に鈴木いづみも首吊り自殺により若過ぎる死を迎えた。36年7ヶ月。彼女もまた、異常な速度で生を燃焼したのだろう。

4309405096エンドレス・ワルツ (河出文庫)
稲葉 真弓
河出書房新社 1997-08

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