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2004.10.13

ホテル・アイリス

 小川洋子著『ホテル・アイリス』。この本は、なんと言っても装丁が美しい。砂漠を全裸の女性が振り返っている写真。腰まである長い髪、白い肌、バランスがとれた肢体。この小説の少女とは、多少イメージが異なる気がするが、美しいので許してしまおう…

 アイリスとは、菖蒲(しょうぶ)の花のこと。ギリシャ神話に出てくる虹の女神という意味もある。

 ホテル「アイリス」の娘、マリは、ホテルでトラブルを起こした客である初老の男性に興味を抱く。数週間後、町でその男性を見かけ、後をつける。すぐに見つかり、男性と言葉を交わし、桟橋で男性を見送った。男性は、町から遊覧船に乗らなければならないF島に住んでいた。ほとんど人の住まない島で、ロシア語の翻訳の仕事をしていた。

 しばらくして、マリのもとに男性から手紙が届く。桟橋から手を振って見送ってくれたことが嬉しかったこと、ちょうどマリーという名の女性が出てくるロシア語の本を翻訳していること、毎週日曜に町へ買い物に行くから、そのとき会えないかとの内容だった。けれど、マリには男性の顔を思い出すことができなかった。老いの影以外、彼を特徴づけているものは何もなかった。伏し目がちの視線、ちょっとした指の仕草、息遣い、声の響きは覚えているのに…
 
 島へ着いたとたん、彼の彼女への支配が始まった。彼が彼女の身体にした行為はありふれたものなのかどうか、彼女はわからなかったし、確かめる術も知らなかった。

 「服を脱ぎなさい」…これが、彼が彼女に発した初めての命令だった。この言葉の響きが自分だけのために向けられていると思うだけで、彼女の胸は震えた。少女と初老の男性とのエロティックな関係が始まった。

 それから3日おきに男性から手紙が来るようになる。「私にとって今一番の望みは、あなたが存在してくれること、ただそれだけなのです」と。そして、毎週口実を作って厳しい母の目をぬすんで彼女は男性と会うようになる。彼は、過去に暗い影を持っていた。妻を目の前で亡くしたこと、死ぬことさえ許されず生きていること、誰も自分が消えたとしても気づかないこと…など。とにかく、男性は孤独だった。一人きりだった。彼女と出会うまでは…

 そして、彼女もまた孤独だったのだと思う。学校にも行かず、自由もなく、ホテルで毎日働く日々。性に目覚める感受性豊かな年頃の痛々しい純愛だと、私は思う。たとえ、それが拙いかたちであっても。

4877286209ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)
小川 洋子
幻冬舎 1998-08

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コメント

ましろ様

わざわざ私のブログにいらしてくださってありがとうございました。
「小川洋子の本」とカテゴリーを作るほど小川さんのファンだと知り、そのカテゴリーの記事をざっとですが全部読んでみました。
小川さんのファンの人はこういう風に作品を味わい、慈しんでいるのだなということが感じられ、良かったです。
私も小川さんや野ばらさんやばななさんのような作品を書く作家になることを目標に頑張っています。いずれ、ましろさんのような真っ直ぐなファンを獲得したいですね(笑)

これからもよろしくお願いします!

投稿: かおり | 2005.05.15 22:34

かおりさん、コメントありがとうございました。
私の拙い過去記事を読んでくださったのですね。恐縮です&嬉しく思っております。
かおりさんのHPの方も、詳しく読ませていただきました。先日はざっとだったのですが。短編、長編、プロフィールと。すーっと物語に入り込める感じがいいですね。
“読ませる文章”というものが、私にも書けたらいいのになぁ…と思いました。

投稿: ましろ(かおりさんへ) | 2005.05.16 16:18

はじめまして。
この本の感想記事を書いたのでTBさせていただきました。
装丁、私も好きです。
ましろさんは小川作品をかなりの数読んでいらっしゃるのですね!
私も読み進めていきたいと思っています。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿: たいりょん | 2005.11.01 17:57

たいりょんさん、コメント&TBありがとうございます!
小川作品は、今のところ全て読破しておりますが、
最近はちょっと離れてしまって…なかなか読めずにいます。
blogpeopleで、たいりょんさんがカテゴリーを作ってくださったので、まとめてTBしてしまったしだいです。
こちらこそ今後も宜しくお願い致します!

投稿: ましろ(たいりょんさんへ) | 2005.11.03 16:13

忘れたころのTBで失礼します。感想がたくさんありましたので。
『ミーナの行進』で小川洋子さんに触れ、さかのぼっていくつか読みはじめたら…あららという感じです。おもしろい小説群には違いありませんが。
この『ホテル・アイリス』あたりが彼女の”本丸”でしょうか。

投稿: 迷跡 | 2006.11.26 19:52

迷跡さん、はじめまして。コメントありがとうございます!
TBの方はどうもこちらの不具合で反映されなかったようです。
申し訳ありません。また、機会がありましたら、お願いします。
『ホテル・アイリス』。わたしはすごく好きな世界なのですが、
好みは分かれるかも知れませんね。閉ざされた世界観はそのままですが。
最近の作品の方がするりと読みやすい印象があります。

投稿: ましろ(迷跡さんへ) | 2006.11.27 08:59

こちらこそTBちゃんと確認しないで失礼しました。
何度かやってみたんですがうまくいきません。livedoorとの相性の問題かもしれませんね。
ともあれ、こちらのブログ、小川洋子さんの記事がたくさんあるのでこれからもお邪魔させていただきます。よろしく。

投稿: 迷跡 | 2006.11.27 19:22

迷跡さん、再びコメントありがとうございます!
TB。反映されてよかったです。
こちらからも、させていただきますね。
ぜひ、またいらしてくださいませ。
わたしもまた、お邪魔したいと思っております。
今後もどうぞよろしくお願い致します!

投稿: ましろ(迷跡さんへ) | 2006.11.29 17:04

こんにちは。
またトラックバックさせていただいたのですが、どうも送信がうまくいっていないようです・・・。おそらく、送信できていないですよね?
小川さんの作品は、ほんと読み出すとさらに次も読みたくなりますね。
ホテル・アイリスは、私は100%好きといえるかんじではなかったのですが、さすが小川洋子な世界観ですね。

投稿: *yuka* | 2007.06.29 17:16

*yuka*さん、コメントありがとうございます。
はい…やはりこちらには届いていないようです。
同じココログなのに、なぜなのでしょうね??
懲りずにまた、いつでもお願い致します。

小川さんの世界観、いいですよね。
どの作品もそれぞれ違うのに、雰囲気とか佇まいが、
わたしはとても好きです。

投稿: ましろ(*yuka*さんへ) | 2007.06.30 21:50

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